【第126回】伝統的価値観(Traditional Values)《其ノ八》「民主主義」と「統計学」/報道各社「世論調査」と「支持率」の Mechanism
※本稿内容は筆者の個人的見解であり、筆者所属組織(現在および過去)の公式見解を示すものではありません。

⇧自由民主党本部、2024年(令和6年)9月撮影
(執筆中)
昨2025年(令和7年)秋、一昨年秋からわずか1年という間隔で自由民主党総裁選(10月4日投開票)が実施され、鳴り物入りで発足した自民・維新連立内閣。2026年(令和8年)冬の「第51回衆議院議員総選挙」(2月8日投開票)では、就任してわずか3か月余りの女性首相によって議会解散権が公然と行使された。その直後の3月に迎えた日米首脳会談では、メディアが「Trump 氏の盟友・安倍元首相の継承者」と過熱気味に報道。その一点をもって Trump 氏に阿る(おもねる)構図には疑問符がついた。また高い「支持率」(の算出)を根拠にした、過度なまでに期待先行的で肯定的なメディアの論調に違和感が残る。現下は、海洋を隔てて日本を360度取り囲む3つの超大国、すなわち対米(Donald Trump)・対中(Xi Jinping)・対露(Vladimir Putin)など頑強な指導者たちとの外交交渉という難局が待ち構える。そうした中、国内(与野党間・与党内)の政権抗争や各論政策の議論に躍起になることは肝要ではないだろう。国の外に目を向け、国家の大局・大事に中りうる長期安定政権の構築が強く望まれる。
しかし労多き「多数決原理」(Majority Rule)により、「議会制民主政治」(Parliamentary Democracy)「政党政治」(Party Politics)がこれに機能していないのは明らかである。安倍晋三・長期安定政権が幕を降ろして以降、令和の連立政権は少数与党(自民党)で派閥が消滅(表面上の弱体化)する一方で(野党の)多党化が進み、混迷と不安定さを増している。現在の日本を取り巻く国際政治・軍事情勢や経済・金融動向(株高・円安基調)が、安倍氏が長い期間をかけて推し進めた「地球儀を俯瞰する外交」(多国間安全保障戦略)や対米外交(Trump 氏との個人的信頼関係の構築)、また包括的経済政策(所謂「アベノミクス」)の遺産に依拠しているのは明らかである。

⇧首相官邸(奥には首相公邸)、2024年(令和6年)6月撮影
本稿では「民主主義」と切り離せない「数の論理」、すなわち「メディア」(新聞社・放送局等)により算出・報道される「統計学」に着目する。具体的には、「永田町政治」(首相・内閣・政党)に対する「世論調査」を通じた有権者からの評価指標=「支持率」算出の Mechanism である。フランス人貴族の政治思想家 Alexis de Tocqueville(アレクシス・ド・トクヴィル)は、その著書『De la démocratie en Amérique(アメリカの民主政治)』の中で、民主主義とは「多数者の専制」(Tyranny of the Majority)であると説いている。すなわち、民主主義は多数派の「世論」による専制政治であると断じ、少数派の意見が排除され、大勢に順応し沈黙することを強いられる、社会の「同調圧力」(Conformity Pressure)であると指摘した。しかし、多数派の意見が少数派のそれより常に優れ、また「正論」であるとは限らず、むしろ正論は概して少数派から発せられるものかもしれない。
報道各社の世論調査は、調査結果が「有権者全体の縮図」となるよう、また調査対象者が偏らないように工夫されている。現在では電話帳や何らかの名簿を用いずに、コンピュータが無作為に発生させた数字を組み合わせ作成・抽出した電話番号(固定電話番号と携帯電話番号)1000件(1000人)規模へ、調査員が電話を架けて行う形が一般的である。これを Random Digit Dialing(RDD)または Random Digit Sampling(RDS)という。有権者全体(18歳以上)の数から考えると約10万人に1人の割合となるため、これを世論といえるのかとも思われるが、「統計学」理論上、無作為抽出による1000人に対して実施される調査で、対象者の性別や年代、居住地域などの属性や意見の構成比が有権者全体とほぼ同じになるとされている。また有権者全体に調査した場合との誤差は約±3ポイント以内に収まるとされる。なお Auto-Call(AC)調査では自動音声で質問がなされ、短時間に大量の電話を比較的安い費用で架けることができるが、調査員による調査に比べて回答率が低くなる傾向がある。これは、実際に回答するのは調査の内容(政治)に関心が高い人のみとなるため、調査結果に偏りが生じやすいとされる。一方インターネット調査では、当該サイトに積極的にアクセスする人(若年層)が対象となりやすく、また特定の嗜好や思想を持つ人に偏りが生じやすいとされる。
朝日 【そもそも解説】朝日新聞の世論調査:朝日新聞
毎日 世論調査 | 毎日新聞社
日経 調査の方法 | 日経電話世論調査について | 日経リサーチ
読売 世論調査の「なぜ?」にお答えします<下> : 読売新聞
産経 産経・FNN合同世論調査を再開します 不正防止策を徹底し、今月から(3/3ページ) - 産経ニュース
2026年7月に実施された世論調査に関する報道各社の記事によると、内閣支持率が6月の前回調査から軒並み大幅下落している。 表は以下記事を基に筆者作成(支持率順に記載)。産経と毎日による調査で、支持率に20ポイントもの差が開いていることが興味深い。
日経(2026年7月27日付) 高市内閣支持率、報道各社で下落相次ぐ 7月世論調査 - 日本経済新聞
産経(2026年7月23日付) 高市内閣の支持率、下落傾向が顕著 毎日は10ポイント減、時事は5割切る - 産経ニュース

※参考文献
佐伯啓思『反・民主主義論』、新潮社、2016年
佐伯啓思『さらば、民主主義―憲法と日本社会を問いなおす』、朝日新聞出版、2017年
佐伯啓思『自由と民主主義をもうやめる』、幻冬舎、2008年
Alexis de Tocqueville、岩永健吉郎(訳)『アメリカにおけるデモクラシーについて』(原題 仏:De la démocratie en Amérique)、中公クラシックス、2015年




