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【第112回】「人工知能」(AI)依存社会への違和感《其ノ一》/Nietzsche|Zarathustra―「超人」(Übermensch)と「末人」(Letzter Mensch)―

⇧兵庫県神戸市中央区「兵庫県立美術館」(建築家・安藤忠雄氏設計による「建築の著作物」)第2展示棟の「Ando Gallery」、壁一面に収納された建築関連書籍Wolf(当社海外渉外顧問)

※本稿内容は筆者の個人的見解であり、筆者所属組織(現在および過去)の公式見解を示すものではありません。

近時、世界中のあらゆる分野(産官学・軍事・文化芸術等)で「人工知能」(Artificial Intelligence、以下「AI」)の開発・実装が過熱し、連日のように新聞紙上等で関連記事が取り上げられる。これの一つの契機として、米国企業「OpenAI, Inc.」による2022年11月の ChatGPTChat Generative Pre-trained Transformer大規模言語モデルを用いた対話型 Generative AI サービス)の公開が挙げられる。またこれは単に AI のみならず、「人型ロボット」(Humanoid Robot)、「無人機」(Drone)や「自動運転」(Autonomous Car)、「Smartphone」(携帯情報端末)や「SNS」(Social Networking Service)等、新興技術(Emerging Technologies)の全般に及ぶ。21世紀の現在、社会や生活のすべてが新興技術に歯止めなく依存する方向に流れている。「効率性」(Efficiency)「合理性」(Rationality)、また「生産性」「費用対効果」「コスト削減」(コスト:費用・時間・労力等)がひたすら求められ、「非効率」で「非合理的」な「手間のかかる」考え方や振る舞いは敬遠され退けられる。

「効率」とは、費やした「労力」(Labor)に対して得られる「成果」(Result)の割合をいう。昭和期には「能率」という表現が一般的であった。効率化にはその反面、人間との対面での交流を伴わない手法が増えることにより、根源的な「人間性」や血の通った「人間関係」の希薄化や喪失につながる落とし穴が潜む。企業等への問い合わせ手段における所謂「AI チャット」や「AI オペレーター」、また小売店舗での所謂「セルフレジ」(Self-Checkout)、飲食店での「セルフオーダー」(Self-Ordering)「モバイルオーダー」(Mobile Ordering)などの拡大がそれである。

また別の側面では、近時、欧米各国において未成年者(1x才未満の子ども)の「SNS」利用制限規制の動きがようやく整い出した。有害な内容物(Contents)とそれによる誹謗中傷(いじめ)や犯罪からの保護・隔離、また学力低下や精神の不安定化の防止などがその目的であるらしい。筆者にはしかし、こうした取り組みはまったくの片手落ちのように思われる。本来、規制の対象年齢は未成年者や子どものみに限定するものでなく、また制限対象(Software)も単に「SNS」に限定するものでないはずである。いまや「Smartphone」(Hardware)への過度依存が社会(公共性)を毀損している負の側面は、未成年者や子どもの範となるべき成人すべて(老若男女)によるものではないか。

本稿では、IT(情報通信)化、デジタル化、電子化等の意味合いを含む、こうした「技術依存社会」「技術偏重社会」において、AI 技術普及に対して筆者が覚える違和感の正体を、「人間の尊厳」(Human Dignity)の喪失および人間の知的活動による創作物たる「知的財産」(Intellectual Property)の毀損と捉え、人間の本性にある「依存性」「放棄」「怠惰」といった側面に着目する。また、近代哲学においてドイツ(プロイセン)の Friedrich Nietzsche(フリードリヒ・ニーチェ)がいくつかの著書で主張した哲学・概念を取り上げる。

⇧「兵庫県立美術館」コンクリート打ちっ放しが特徴的な円形テラスの螺旋階段(Spiral Staircase)と筆者

①AI 普及加速の背景・前提と帰結/論理の螺旋構造(Spiral Structure)

・「自由」(自由貿易/グローバリズム)と「民主主義」の拡大⇒「人類社会の進歩と幸福」(西側陣営ではそうだとされている)
・「家」「国家」重視の価値観から「個人の尊重」「個人主義」「多様性」へ
・「核家族化」「女性の社会進出」「(所謂)ジェンダー文化」の賛美
・「少子高齢化」長期化による「労働力人口」「生産年齢人口」の減少
・(よって)在留外国人への労働依存・補完・代替もやむなし
・(よって)科学技術(AI・人型ロボット等)への労働依存・補完・代替もやむなし
・しかし「少子高齢化」進行をくい止める手立ては本当にないのか(思想・価値観の転換など)
・在留外国人・訪日外国人の増加、AI 技術開発・社会実装の加速は本当に「人類社会の進歩と幸福」(国益)につながるか
・また「少子高齢化」がもし解消すれば、在留外国人依存(観光立国政策)や AI 技術開発・社会実装の促進は不要となるか
・在留外国人・訪日外国人の減少、AI 技術開発・社会実装の後退は「人類社会の進歩と幸福」(国益)を妨げるか
AI 化の行く末は、企業の「労働者」のみならず「経営者(社長・役員)」自体も、また「政治」「教育」その他の分野でも、あらゆる階層の人間が「高いコスト」として AI に置き換えられる社会⇒「人類不用社会」の到来
・欧米列強により既にグローバル化された時代(17~19世紀前半)において、江戸期日本の「鎖国」「自給自足」を前提とした「低成長社会」は反グローバリズム(悪)であったといえるか

②「人間の尊厳」(Human Dignity)の喪失

・技術が資する2つの領域/「道具・手段」(ToolMeasure)と「知性・創造性」(IntelligenceCreativity)の線引き
・18世紀産業革命(Industrial Revolution)以来、科学技術は「道具・手段」として「生産性」の大幅向上に寄与(「経営者」「投資家」に便益)
・一方、科学技術(機械化)は「労働者」の雇用を大幅に毀損(縮小)
・現在の議論の的は、AI の役割を「知性・創造性」の領域まで許容すべきか
・許容される「主」(人間とその役割)と「従」(AI とその役割)の割合
・「AI 化」は知的活動の外注⇒AI への丸投げ
・人間の本性にある安楽な選択肢へ流れる「依存性」(Dependency
・人間の本性にある「放棄」(Abandonment)と「怠惰」(Laziness)の側面
・人間が守るべき「知性・創造性」「主体性」「自律性」(の放棄/からの怠惰)⇒「人間の尊厳」の喪失
・人間の「非論理性」(Illogicality)「不完全性」(Imperfection)「野性」(Wild Nature
・人間の「実存」「実在」/人間とは何か/神とは何か/哲学的・宗教的考察
・現状の AI は「自律性」「思考」「心(感性)」をもつレベルに到達していない(から安全だ)
・しかし開発を重ね(早晩訪れる)そこに到達した時点で、人間と AI に残る差異は何か
AI は人格を有するか/人格をもたせるべきか
・万物を創造しうる神に代わろうとする人間の「驕り」(Arrogance

③Nietzsche/「超人」(Übermensch)と「末人」(Letzter Mensch)

19世紀ドイツ(プロイセン)の哲学者 Friedrich Nietzsche は、著書『ツァラトゥストラはかく語りき』(Also sprach Zarathustra)で「超人」(Übermensch)(=強者)の概念を主張した。超人とは、超克されるべき存在として自己の可能性を極限まで実現し、「自らの意志」で新たな価値を「創造」する理想的な人間であり、その具体像は Zarathustra(ツァラトゥストラ)であり、キリスト教の神に代わる大衆の支配者であるとした。Zarathustra とは同著の主人公であり、古代ペルシアのゾロアスター教の開祖、Zoroaster のドイツ語読みである。

Nietzsche は四部構成となる同著の第一部冒頭「ツァラトゥストラの序説」において、この「超人」の対極の存在に「末人」(Letzter Mensch)という言葉を用い、自らは問いを立てずに思考と創造を「放棄」し、労苦と失敗を避け、幸福(安楽と平穏)を求める「怠惰」な人間として批判し軽蔑した。また「畜群」(Herde)とは著書『善悪の彼岸』(Jenseits von Gut und Böse)に登場する、飼いならされた家畜のような群れた人間(=弱者)として、矮小化され平等意識に安住する大衆を指している。加えて Nietzsche が大衆社会への蔑視と反感の意味で用いる「あまりにも多数な者」(Viel zu Viele)「余計な者」(Überflüssigen)「市場の蠅」(Fliegen des Marktes)「賤民」(Gesindel)も同じ類である。以下に序説の第五節から、Zarathustra による「末人」の描写を引用する。(岩波文庫版・氷上英廣氏 訳より/訳語「おしまいの人間」を「末人」に筆者変更/下線筆者

見よ! わたしはあなたがたに「末人」を描いて見せよう。「愛とは何か? 創造とは何か? あこがれとは何か? 星とは何か?」──「末人」はこうたずねて、こざかしくまばたきする。そのときは大地はすでに小さくなり、その上に、一切を小さくする「末人」がとびはねている。その種族は地蚤のように根絶しがたいものだ。「末人」はもっとも長く生きのびる。「われわれは幸福をつくりだした」──と「末人」たちは言って、まばたきする。かれらは生きるのに厄介な土地を見捨てる。温暖が必要だからである。かれらはやはり隣人を愛している。隣人にからだをこすりつける。温暖が必要だからである。病気になることと不信の念を抱くことは、かれらにとっては罪と考えられる。かれらは用心深くゆったりと歩く。石につまづく者、人間につまづき摩擦を起こす者は馬鹿者である!少量の毒をときどき飲む。それで気持のいい夢が見られる。そして最後には多くの毒を。それによって気持よく死んでゆく。かれらはやはり働く。なぜかといえば労働は慰みだから。しかし慰みがからだにさわらないように気をつける。かれらはもう貧しくもなく富んでもいない。どちらにしてもわずらわしいことだ。誰がいまさら人々を統治しようと思うだろう? 誰がいまさら他人に服従しようと思うだろう? どちらにしてもわずらわしいことだ。牧人はいなくて、畜群だけだ! だれもが平等だし、また平等であることを望んでいる。それに同感できない者は、みずからすすんで精神病院にはいる。「むかしは世の中は狂っていた」──とこの洗練された人たちは言い、まばたきする。かれらは賢く、世の中に起こることならなにごとにも通じている。そして何もかもかれらの笑い草になる。やはり喧嘩はするものの、かれらはじきに和解する、──さもないと胃腸を害するおそれがある。かれらは小さな昼のよろこび、小さな夜のよろこびを持っている。しかしかれらは健康を尊重する。「われわれは幸福をつくりだした」──「末人」たちはこう言い、まばたきする。

19世紀に NietzscheZarathustra に語らせた「超人」と「末人」の相克は、「人間の尊厳」を喪失しつつある21世紀の AI 依存社会を見事に暗示し予言している。

④「知的財産」(Intellectual Property)の毀損

・人間の創作物(CreatureCreation)たる「知的財産」を AI が生み出すことによる毀損
・知的財産:人間の創造的活動により生み出されるもの 知的財産基本法 | e-Gov 法令検索
・【産業の範疇】特許・実用新案・意匠・商標と【文化の範疇】著作権
・特に著作権(Copyright)  著作権法 | e-Gov 法令検索(著作物と著作者)のあり方
・著作物(Copyrighted Work)の定義:思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法 第2条1項1号)
・著作(権)者(Copyright Holder)の定義:著作物を創作する者(著作権法 第2条1項2号)
・著作物/著作者の例示:文筆(小説・作詞・脚本・論説等)、美術(絵画・彫刻・写真等)、舞踊(振付)、映画・ドラマ・広告等(監督・演出等)、音楽(作曲)、建築(設計)
・著作隣接権者(Related Copyright Holder/実演家)の例示:映画・ドラマ・広告等(俳優・声優・ファッションモデル等)、音楽(歌手・楽器演奏家等)、舞踊(ダンサー) ※スーパースターと呼ばれる人々

⑤AI と著作権に関する文化庁の考え方

AI と著作権に関する文化庁の考え方は以下の通りである。AIと著作権について | 文化庁

AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日) 94037901_01.pdf 

(筆者概括)「著作者は著作物を創作する者をいう」との定義に対し、AI 生成物の「著作物性」について、AI は「法的な人格」を有しないことから「創作する者」に該当しえない。そのため、AI 生成物が「著作物」に該当すると判断された場合も、AI 自身がその著作者となるものではなく、当該 AI を利用して「著作物を創作した者」が当該 AI 生成物(著作物)の著作者となる。 

※参考文献

Friedrich Nietzsche氷上英廣訳)ツァラトゥストラはこう言った(上・下)』(原題:Also sprach Zarathustra)、岩波書店、(上)1967年(下)1970年
Friedrich Nietzsche、木場深定訳)善悪の彼岸』(原題:Jenseits von Gut und Böse)、岩波書店1970
栗原聡(編著)AI の倫理 人間との信頼関係を創れるか』、KADOKAWA、2026年
ニュートンプレス別冊 AI 時代の哲学(Newton 別冊)』、ニュートンプレス、2026年
品川哲彦『倫理学入門―アリストテレスから生殖技術、AI まで』、中央公論新社、2020年

著者プロフィール

有田 仁(Jin Arita)

1966年(昭和・丙午)大阪府堺市生まれ。有田アセットマネジメント代表取締役。大阪工業大学大学院 知的財産研究科修了。NTT(日本電信電話)グループ・髙島屋等勤務。NTT研究所系教授陣に師事し研究発表(国際標準化専攻)および米国系業界団体(米国商工会議所・Cloud Security Alliance 等)の運営に関与。著書に『平成・令和社会への違和感と伝統的価値観の復古』(幻冬舎 2026年)。研究論文に『自動運転システムにおけるクラウドネットワークの通信遅延条件(共著)』(日本知財学会 2016年)『クラウドセキュリティ技術分野の知的財産戦略に関する研究』(大阪工大院・紀要 2016年)『クラウドセキュリティ技術に関する特許出願傾向と特性』(電子情報通信学会 2015年)等。

仁徳天皇陵を含む百舌鳥古墳群近傍に生を受け、外祖母の先祖は江戸初期より、出雲国・松江藩(松平家)に禄を食む。昭和改元時の宰相で重臣として昭和天皇を輔弼した若槻禮次郎男爵は遠い姻戚。国際オリンピック委員会(IOC)委員で貴族院議員の岸清一博士は親戚筋。連載コラム「時論」では社会の諸相を週次で論じ、還暦を迎えた己(おのれ)の人生を総決算。東西の歴史観・伝統的価値観の視座で、平成・令和社会への違和感を問う。

足繁く通う介護施設。五感で接する母(要介護5/認知症)への肉親の情は年追う毎に増し、当社海外渉外顧問の Wolf(脳神経学博士・心理学専攻)もこれに寄り沿う。座右の銘は「温故知新」「和魂洋才」「古今東西」。現下の関心事は哲学(論理学)領域における 「矛盾許容」(Paraconsistent)。

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