【第64回】『恍惚の人』「少子高齢化」と「介護(Nursing Care)の社会化」に係る洞察《後篇》―企業・従業員が直面する「介護・仕事の両立」の側面―

⇧大阪市北区堂島の「NTT テレパーク堂島」、第40回株主総会で決議された「NTT Communications」(筆者も二十年来、勤仕貫徹)の社名消滅は甚だ遺憾(NTT docomo 傘下の社名へ変更)
※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
①有吉佐和子『恍惚の人』と「介護の社会化」
(執筆中)
今からおよそ半世紀前の1972年(昭和47年)に発表された、作家・有吉佐和子氏によるベストセラー『』は、近年の「認知症(Dementia)」(昭和期~平成期半ばの呼称は「痴呆症」)および「高齢者介護」問題に先鞭を付けた長編小説である。翌1973年(昭和48年)には森繁久弥氏、高峰秀子氏ら主演による映画化もされている。令和の現在、痴呆高齢者を扱った同書はますます今日性を強めている。
従来の「家族」(肉親)による介護負担を軽減し、高齢者介護を「社会全体」で支えるために2000年(平成12年)「介護保険制度」が施行された。これは介護サービス提供に必要な費用等を、国民が納める保険料と公費(税金)で賄うものである。厚生労働省の「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」 001253798.pdf によれば、要介護・要支援認定者数は2025年(令和7年)度で約717万人である。この制度がなければ、「介護離職」によって職場は回らず介護負担に耐えかねた家庭崩壊が続出していた恐れもある。介護保険制度は高齢化の問題に「介護の社会化」という回答を用意したが、そのコストは膨大な財政負担となって私たちの肩にのしかかってくる。
筆者は2024年(令和6年)より勤務先(NTT グループ)で介護休職を申請の上、母(要介護5)の介護を続けている。母の症状(Symptom)で最も懸念されるものが「認知症」である。当社海外渉外顧問で「脳神経学」博士である Wolf の卓越した見識も参考に、「認知症」への向き合い方を日々考察している。「厚生労働省」の定義 知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) によると、「認知症」とは「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」とある。また「認知症」を引き起こす最多のものは「アルツハイマー病」など、「海馬」(hippocampus/大脳側頭葉の内側にある部位)等の神経細胞に萎縮や、神経細胞の接点(synapse)を含めた減少がみられる、「神経変性疾患」と呼ばれる病気である。
当初は、数年間続けた在宅介護の継続(通所介護主体)が筆者の本意であったが、冬季に罹患した褥瘡(床擦れ)による入院治療を機に老健施設への入所継続(事実上の施設介護)を余儀なくされ、現在に至っている。そこで筆者の取った選択は、自身が週の過半を介護施設の現場に入り込み、専門職スタッフの傍らで、肉親の介護実務を主体的に実践するものであった。具体的な内容は、母の食事介助(排泄・入浴等の介助は施設側の範疇)や訪問治療への立ち合い、個室での音楽療法(ピアノ演奏)や身体リハビリ(歩行練習等)・レクリエーション参画、また外部美容室等への外出付き添いなどである。これらに付随して、母名義資産の家族代理人として証券会社等との管理運用対応にも携わる。しかしそれらをもってしても、この1年余は、母の認知症と身体機能(特に脚力)低下の進行速度を辛うじて遅らせるのみであった様に感ずる。
いま振り返るに十余年前の筆者父逝去の後、少なくとも「令和」に入ってより、母の認知症が徐々に顕在化した様に記憶する。生来、勁烈 ( けいれつ )な性格で、前述の『』を揶揄していた母自身が、認知症を発症し「幼児退行」を伴う重い要介護者となるなど、筆者にとり夢にも思わぬ仕儀であった。また時期をほぼ同じくして、新型コロナウイルスをはじめとした感染症の拡大が社会を覆い、介護現場においても家族との面会に制約が課されるなど、悪条件が重なった。急激に高齢化が進む日本においては、「平均寿命」とともに「健康寿命」をいかに延ばすかが肝要との考え方に大いに首肯する。
②「介護・仕事の両立」に向けた公的指針
(執筆中)
■厚生労働省「仕事と介護の両立~介護離職を防ぐために~」 仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~ |厚生労働省 によれば、家族の介護を抱えている従業員が仕事と介護を両立できる社会の実現を目指して、仕事と介護の両立に当たっての課題や企業の両立支援策の状況を把握し、「介護休業」制度等の周知を行う等の対策を総合的に推進している。
高齢者人口の増加とともに、介護保険制度上の要支援・要介護認定者数は増加しており、今後、団塊世代が70歳代に突入することに伴いその傾向は続くことが見込まれる。介護者は、とりわけ働き盛り世代で、企業の中核を担う従業員であることが多い。そうした中、計画性を伴う育児とは異なり、介護は(要介護問題が)緩慢とはいえ突発的に発生することや、介護の期間や方策も多種多様であることから、仕事と介護の両立が困難となることも考えられる。このため、厚生労働省では、「育児・介護休業法」 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索 に定められた「介護休業制度」などの周知徹底を図り、企業及び従業員の課題を把握し事例集を作成するなど、介護を行っている従業員の継続就業を促進している。
「従業員側」は、継続的に介護を行うにあたり経済的負担が発生する。また介護終了後の生活を視野に入れても経済的基盤は重要である。そのため介護に直面しても早々の退職を選択することなく、仕事と介護を両立するための制度を活用し、仕事を継続しながら介護を行うのが望ましい。一方「企業側」にとっても、経験を積んだ従業員や管理職など企業の中核となる人材が仕事と介護の両立に悩み、生産性の低下や離職を招くことは大きな損失である。離職あるいは心身ともにストレスを抱える従業員が増える前に、仕事と介護の両立支援の取組を開始することが必要である。
■また経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 main_20240326.pdf によれば、総人口の減少や「少子高齢化」の問題と相まって、労働人口の減少(人手不足の深刻化)に直面する社会的背景を踏まえると、日本が超高齢社会を迎える中で、仕事と介護を巡る認識自体を今一度、改めていくことが必要になると説く。
従来は、専業主婦世帯が多く介護負担を家庭内で担いやすい環境にあったため、従業員の家族に介護が必要となった場合でも、配偶者などと連携するなど従業員個人の範囲で対応ができ、企業の中でも経営課題としての重要度が上がりづらい状況にあったと言える。一方で現在は、企業活動のベースとなる労働人口が減少する中で共働き世帯は増加し、仕事と人生設計の連関が密になってきている。さらに、慢性的な人手不足の中においては、一人一人の従業員の希少性が高まっており、「仕事と介護の両立支援」は、企業が今の時代を乗り越えるために必須課題となっていく。こうした枠組の変化が日本社会に求められている。
育児と比して、介護に関する企業の自主的な取組はあまり進んでいない状況である。仕事と介護の両立支援に先進的に取り組む企業は一定数存在するが、大規模企業においては、育児と比して、介護に関する自社で実施している制度のニーズや満足度等の聴取は約半数にとどまり(育児が34.2%、介護が15.2%)、中小規模企業に関しては、育児に関する自主的な取組を行っていない企業が18.7%に比して、介護では27.5%となっている。なお、育児に関しては、有価証券報告書等の「従業員の状況」の記載として、「男性の育児休業取得率」が入る等、投資家との対話における観点としても盛り込まれているところである。介護に関しても、健康経営度調査の評価項目への追加をはじめとして、企業として取り組む動機付けの充実が図られつつある。
■さらに公益財団法人 長寿科学振興財団「老老介護・認認介護とは」 老老介護・認認介護とは | 健康長寿ネット によれば、「老老介護」とは、高齢者の介護を高齢者が行うもの。主に65歳以上の高齢の夫婦や親子、兄弟などのどちらかが介護者であり、もう一方が介護される側となるケースを指す。「認認介護」も同様に、高齢の認知症患者の介護を認知症である高齢の家族が行うもの。日本は老年人口と呼ばれる65歳以上の高齢者の割合が25%を超え、4人に1人が高齢者という時代となった。それに伴い要介護者とともに老老介護・認認介護も増加しており、介護する側の深刻な実態が浮き彫りになっている。
介護者が高齢となると体力的・精神的負担が大きくなり、共倒れの状態になることも考えられる。また外出機会も少なくなり、外部からの刺激が得られないことなどからストレスを抱え、認知症になるリスクも高まる。さらに介護者が夫、要介護者が妻の場合、「家事が困難」という問題が生じることがある。妻が要介護者となるまで家事のほとんどを妻にしてもらっていた夫が突然、炊事・掃除・洗濯・ごみ出し・資産管理等の用事をこなす必要に迫られる。介護自体以上に家事の困難さを訴える場合が多いというのも、男性介護者の特徴の1つとなっている。

⇧「大川」(旧淀川)から分流し、「土佐堀川(南縁)」と「中之島」を挟んで西流する「堂島川(北縁)」沿いの「NTT テレパーク堂島」

③海外の状況・比較
(執筆中)
※参考文献
渡辺正仁『アルツハイマー病の発見者:Alois Alzheimer』、保健医療学雑誌6 (2)、2015年(平成27年)
池村義明『ドイツ精神医学の原典を読む』、医学書院、2008年(平成20年)
有吉佐和子『恍惚の人』、新潮社、1982年(昭和57年)
※関連学会情報
The Alzheimer’s Association International Conference(AAIC) AAIC | July 27-31, 2025 | Alzheimer's Association
Alzheimer’s Disease International(ADI) Home | Alzheimer's Disease International (ADI) (alzint.org)
International Conference on Alzheimer’s and Parkinson’s Diseases(AD/PD) AD/PD™ 2025 Alzheimer’s & Parkinson’s Diseases Conference (kenes.com)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター (ncgg.go.jp)
一般社団法人日本認知症学会 HOME | 日本認知症学会 (dementia-japan.org)