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【第63回】「恍惚の人」高齢者介護の社会化に係る洞察《前篇》―アルツハイマー病(認知症)および「施設介護現場の現状と課題」―

⇧(写真右下)筆者宅居間で肝胆相照らす、母と Wolf(当社海外渉外顧問/「脳神経学」博士)

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

①有吉佐和子『恍惚の人』と「介護の社会化」

(執筆中)

今からおよそ半世紀前の1972年(昭和47年)に発表された、作家・有吉佐和子氏によるベストセラー恍惚(こうこつ)の人』は、近年の「認知症(Dementia)」(昭和期~平成期半ばの呼称は「痴呆症」)および「高齢者介護」問題に先鞭を付けた長編小説である。翌1973年(昭和48年)には森繁久弥氏、高峰秀子氏ら主演による映画化もされている。令和の現在、痴呆高齢者を扱った同書はますます今日性を強めている。

家族の介護負担を軽減し、介護を社会全体で支えるために2000年(平成12年「介護保険制度」が施行された。厚生労働省によれば、約606万人が利用している。この制度がなければ、「介護離職」によって職場は回らず介護負担に耐えかねた家庭崩壊が続出していた恐れもある。介護保険制度は高齢化の問題に「介護の社会化」という回答を用意したが、そのコストは膨大な財政負担となって私たちの肩にのしかかってくる。

筆者は2024年(令和6年)より勤務先(NTT グループ)で介護休職を申請の上、母(要介護5)の介護を続けている。母の症状(Symptom)で最も懸念されるものが「認知症」である。当社海外渉外顧問で「脳神経学」博士である Wolf の卓越した見識も参考に、「認知症」への向き合い方を日々考察している。厚生労働省」の定義 知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) によると、「認知症」とは「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」とある。また「認知症」を引き起こす最多のものは「アルツハイマー病」など、「海馬」(hippocampus/大脳側頭葉の内側にある部位)等の神経細胞に萎縮や、神経細胞の接点(synapse)を含めた減少がみられる、「神経変性疾患」と呼ばれる病気である。

当初は在宅での介護(通所介護主体)が筆者の本意であったが、冬季に罹患した褥瘡(床擦れ)による入院治療を機に老健施設への入所継続(事実上の施設介護)を余儀なくされ、現在に至っている。そこで筆者の取った選択は、自身が週の過半を介護施設の現場に入り込み、専門職スタッフの傍らで、肉親の介護実務を主体的に実践するものであった。具体的な内容は、母の食事介助や訪問治療への立ち合い、個室での音楽療法(ピアノ演奏)や歩行リハビリ・レクリエーション参画、また外部美容室への送迎等である。しかしそれらをもってしても、この1年余は、母の認知症と身体機能(特に脚力)低下の進行速度を辛うじて遅らせるのみであった様に感ずる。

いま振り返るに十余年前の筆者父逝去の後、少なくとも「令和」に入ってより、母の認知症が徐々に顕在化した様に記憶する。生来、勁烈 ( けいれつ )な性格で、前述の恍惚の人を揶揄していた母自身が、認知症を発症し「幼児退行」を伴う重い要介護者となるなど、筆者にとり夢にも思わぬ仕儀であった。また時期をほぼ同じくして、新型コロナウイルスをはじめとした感染症の拡大が社会を覆い、介護現場においても家族との面会に制約が課されるなど、悪条件が重なった。急激に高齢化が進む日本においては、「平均寿命」とともに「健康寿命」をいかに延ばすかが肝要との考え方に大いに首肯する。

②アルツハイマーという神経変性疾患

「脳神経学」Neurology)における「認知症」Dementiaの領域においては、ドイツ人医学者・博士(Ph.D.)の Aloysius "Alois" Alzheimer 氏とその研究成果があまりにも著名だ。

同氏は、嫉妬妄想・記憶力低下などを主訴とする51歳の女性患者 Auguste Deter の脳組織を調査した症例について、1906年の「第37回南西ドイツ精神科医学会」において発表を行った。この症例は2種類の病変、すなわち

①「アミロイドβ(Amyloid β)」と呼ばれる特異な「蛋白質」が線維状に沈着してできる染み「老人斑」(ろうじんはん
②「タウ(Tau)蛋白質」がリン酸化などの修飾を受けて線維化(もつれ)を起こす「神経原線維変化」(しんけいげんせんいへんか)

という現象に関するものであった。これが後に「アルツハイマー病」(AD:Alzheimer's disease)、いわゆる「認知症」と呼ばれる疾患の多くを占めるものとして、広く知られる様になり現在も主流となっている。同が克明に記録した「アルツハイマー病」という疾患概念は、「ミュンヘン王立精神病院」における彼の師であり院長の、ドイツ人医学者・博士 Emil Kraepelin 氏の1910年の著書、『Textbook of Psychiatry』で大きく取り上げられ、現在も疾患名として確立されている。

③施設介護現場の現状と課題

(執筆中)

■取り巻く背景

2020年代も半ばの現在、「高齢者介護」は日本社会で大きなウエートを占める。その背景にあるのは、総人口が減少する中で急激に進む「少子・高齢化」や「医療の進歩」などが挙げられよう。「人生百年時代」といわれる中で、健康で充実した老後をいかに過ごすか、また子供世代(介護側)の介護負担をいかに軽減するか、が問われている。(推移グラフ:平均寿命、総人口、年齢構成)

また筆者の肌感覚では、昭和期に比して認知症を含めた要介護の高齢者の割合が拡大している。(推移グラフ:認知症、要介護構成)

さらにこれも筆者の肌感覚だが、令和に入り、新型コロナウイルスをはじめ感染症の種類や影響が以前に比して拡大している。冬季を中心に高齢者などへ悪影響をおよぼす要素たりえる。 

■施設介護現場の現状と課題

「施設側」(介護サービスの提供側)と「家族側」(介護サービスの利用側)の「高齢者介護」に係る姿勢には、僅かながらも乖離がある様に思われる。

「施設側」では、介護サービスの提供は基本的に「事業」である以上、最優先事項として入所者(要介護の高齢者)の医療観点からの安全衛生の確保、介護保険制度下での適正な施設運営、従業員(専門職スタッフ)業務の生産性向上と健全な労働環境の維持、が念頭にあると思われる。

また近年、上述した総人口の減少や少子高齢化の問題と相まって、人手不足の深刻化や厳しい労働環境の現状、従業員の待遇改善要望などが挙がっている。施設の経営者側にとっても、現場で日々連携して働く専門職スタッフの業務管理や技能教育も大きな課題であろう。こうした専門職は、医師、看護師、介護士、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、また訪問歯科医、訪問理容師など多岐にわたる。さらに、多人数のスタッフが一定期間で受け持ち対象(入所者区域)を入れ替わるチームローテーション制は、提供される介護サービスの「均質化」を生み、これに対する是非もあろう。

他方「家族側」(特に筆者の場合)では、最優先事項は要介護の肉親(父母等)に、少しでも明朗に「誇り」ある高齢者として毎日を送ってもらいたい、との一言に尽きよう。たとえ、住み慣れた自宅や愛着ある近隣地域から離れ、施設という「箱」の中で毎日を過ごしていても、肉親(子供等)と接する時間を少しでも増やしてあげたい、健常者と変わらない生活環境(食事内容・美容面など)を少しでも整えてあげたい、との想いがある。また時には介護保険対象外(実費負担)となっても、肉親(父母等)の求める(喜ぶ)介護生活環境を選択したい場合もある。

理想は「オーダーメイド(custom-made)介護」である。また介護サービスレベルの担保とともに、担当いただく専門職スタッフには一定期間にわたり継続される、人間性(個性)や精神面のつながりも求めたい。無論これらは現実的に、「他者の親」たる複数の高齢者を相手にしながら、日々笑顔でお世話いただいている施設スタッフに対して欲深い要望かもしれない。だからこそ、そうした意味で家族側も、施設サービス利用について受身一辺倒でなく、許容される範囲であろうとも「自身の親」の介護実務に参画し、創意工夫を図り施設側へ適時、意見具申や建設的提案を試みることも重要と思われる。

⇧日々大変お世話になっている介護施設、筆者母の個室に持ち込んだ電子ピアノと赤ちゃん人形

前述の通り、母に勁烈 ( けいれつ )な面が表出していた折は感じ得なかった「肉親の情」が増したのは、まさに人生の巡合である。還暦を間近にして漸く親孝行の何たるかを知る自分に憮然とする。そして母自身が「恍惚の人」となって以降、これまでの親不孝を償う心も込め、長期戦覚悟で介護実務に日々勤しむ(いそしむ)中に、悦びを覚える自分に気付く。

※参考文献

渡辺正仁『アルツハイマー病の発見者:Alois Alzheimer』、保健医療学雑誌6 (2)、2015年(平成27年) JAHS 6(2) 004
池村義明『ドイツ精神医学の原典を読む』、医学書院、2008年(平成20年)
有吉佐和子『恍惚の人』、新潮社、1982年(昭和57年)

※関連学会情報

The Alzheimer’s Association International ConferenceAAIC AAIC | July 27-31, 2025 | Alzheimer's Association
Alzheimer’s Disease InternationalADI Home | Alzheimer's Disease International (ADI) (alzint.org)
International Conference on Alzheimer’s and Parkinson’s DiseasesAD/PD AD/PD™ 2025 Alzheimer’s & Parkinson’s Diseases Conference (kenes.com)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター (ncgg.go.jp)
一般社団法人日本認知症学会 HOME | 日本認知症学会 (dementia-japan.org)

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