【第39回】Event Report《其ノ四》「経営支援 EXPO 2024 冬 大阪」(於:インテックス大阪)―LEXUS のマーケティング・ブランディング戦略―
※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
師走(12月)20日、大阪市住之江区南港北は「咲洲」(さきしま)の「インテックス大阪(INTEX OSAKA)」(大阪国際見本市会場)で、開催期間(12月18日~20日)最終日を迎えた「経営支援 EXPO 2024 冬 大阪」 経営のための展示会・EXPO| 経営支援 EXPO 2025 春 大阪 に参加しました。本展示会の主催は「ビジネスイノベーション Japan 実行委員会」によります。
同会は日本初の、経営課題を解決するためのサービス・製品が一堂に集う展示会です。その内容は、組織・事業コンサルティング、補助金支援、士業、経営管理システム、M&A・事業承継支援、IPO 支援、新規事業開発支援、コンプライアンス支援、人材育成・採用支援などです。また、経営層、経営者、取締役・執行役員、経営企画、事業責任者、事業推進など企業幹部の商談の場として、業務改善や課題解決のヒントが得られる絶好の機会となっています。
⇧「インテックス大阪」遠景と会場入口(1号館・2号館)の様子
①LEXUS のマーケティング・ブランディング戦略
⇧(写真右上)マーケティングコースセミナー『トヨタ、レクサスで学んだマーケティングの実践的活用/氏』会場の様子、(写真右中・下)販売店「LEXUS 貝塚」Reception(受付)に立つ筆者
LEXUS LEXUS は、「トヨタ自動車株式会社」が1989年(平成元年)より展開する、富裕層をターゲット顧客とした、日本を代表する高級車ブランド(Luxury Automobile Brand)です。ブランド名称である LEXUS の由来として、ドイツ語 Luxus(「贅沢」の意)からの造語、とする一説があります。LEXUS は「究極の品質」と「おもてなしの接客」により、先行展開された米国市場で短期間(10年)のうちに販売台数1位の高級車ブランドとなりました。その後、2005年(平成17年)に日本市場で販売開始。並行して欧州、中近東、中国にも導入を進め、2010年(平成22年)以降は、外観(Front Grille)の統一デザイン「Spindle Grille」の導入など、ブランドポジショニングの大胆な変更を実施しています。この「Spindle」は「紡錘」(糸巻)の意をもち、(奇しくも)同社の祖業である「株式会社豊田(とよだ)自動織機製作所」に通じるといえましょう。また鋭角のL字形意匠が際立つLED 「昼間走行灯」(Daytime Running Light)が、Brand Identity を鮮やかに訴求しています。
これらは「トヨタ自動車株式会社」により知的財産(意匠)として保護されています。特許庁の情報プラットフォーム「J-PlatPat」(特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP] (inpit.go.jp))で検索すると、「Spindle Grille」について、「意匠に係る物品:乗用自動車(フロントグリル周辺部)」として、また「Daytime Running Light」について、「意匠に係る物品:自動車用フロントコンビネーションランプ」として各々意匠登録されています。なお LEXUS のロゴ(文字列)とマーク(大文字の「L」を内包する楕円)について、称呼「レクサス」として商標登録されています。
⇧Brand Identity を訴求する「Spindle Grille」および「Daytime Running Light」
氏は、「トヨタ自動車株式会社」 トヨタ自動車WEBサイト レクサスインターナショナル・ブランドマネジメント部長を経て、現在は「A.T. Marketing Solution」 A.T. マーケティングソリューション高田 敦史のTOPページ|A.T. Marketing Solution 代表を務めています。セミナーでは LEXUS のマーケティング戦略について以下のお話を拝聴しました。
■ 高級車市場のブランドポジショニングで、欧州(ドイツ)車 Mercedes-Benz の「Quality」、BMW の「Sporty」に対し、LEXUS は「過剰(なまでの)品質」(Excessive Quality)と「顧客満足」(CS:Customer Satisfaction)の位置付け。
■ 広告戦略において、LS、ES など個別の車種は打ち出さずに LEXUS ブランドのみを訴求、また華美な女性モデルを用いることなく品質の高さを巧みかつ情緒的に表現。
■ コーポレートブランド(企業名:TOYOTA)を訴求せず単独で強力なブランド(LEXUS)でありながら、影でコーポレートブランドの価値向上に貢献(Shadow Branding)。
■ McDonald's を事例とした「純粋想起」「ブランド連想」の要素。
また同氏はその著作(論文)『自動車業界におけるラグジュアリーブランド戦略』において、欧州の伝統的な高級車ブランドに競合する LEXUS ブランドのポジショニングと米国市場での成功について、以下の様に捉えています。
■ Prestige(名声・品格)を低下させることなく(排他性と希少価値を維持しつつ)、ブランド認知度と売上拡大を達成するという、「Luxury Brand のパラドックス」を解決(二律双生)しえたこと。
■ 欧州高級車ブランドのもつ特性「歴史・伝統・出自(生産地)」「芸術的な職人技」「花形デザイナーの存在」等に代替しうる、「先進的なモノづくり」や「顧客視点の重視」「顧客体験の創造」をブランド展開の基軸としたこと。
■ 権威主義的(伝統的な価値観)な既存の高級車よりも、機能性を重視し合理的で高品質な日本車を受け入れる世代層をターゲット顧客としたこと。
■ 「Traditional Luxury」に対して、新たに「Smart Luxury」のブランド属性を構築したこと。
筆者も十年来の LEXUS OWNER および Lexus Owner's Card Holder として、大阪府内の販売店(Car Dealership)「LEXUS 貝塚」またトヨタファイナンシャルサービス株式会社より、新車提案や定期点検また LEXUS FINANCIAL SERVICES など、上質で広範なサービスを受けています。LEXUS 販売店(日本国内)の店舗は内装素材等について細かく規定の上、店舗規模毎にデザインが標準化されており、建設費用は通常のトヨタ店舗の3倍ともいわれています。
さらに、その店頭接客サービスは百貨店や高級ホテルのそれにも通じ、「小笠原流礼法」(おがさわらりゅうれいほう)(※1) 小笠原流礼法宗家本部オフィシャルサイト に基づく独自の接客マナーが徹底されています。LEXUS では、「モノ」(究極の品質をもつ LEXUS 車の販売)のみならず、「コト」(おもてなしの接客を通した顧客満足の提供)を含めて、販売店を「Branding Spot」と位置付ける製販一体の取り組みが特筆されます。
(※1)小笠原流礼法:清和源氏を祖とする小笠原氏により制定、武家故実から出た礼儀作法の一派で室町時代に足利義満公の指南を務めた小笠原長秀公が「三議一統」を編纂、江戸時代には徳川将軍家「お止め流」として一子相伝
②LEXUS 電気自動車(BEV/RZ450e)の試乗体験
筆者は今回、「LEXUS 貝塚」での車検期間の代車(試乗車)に RZ450e を供されました。RZ LEXUS ‐ RZ は、LEXUS の展開する電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)専用モデルで、あらゆる走行状況で減速、操舵、加速が途切れなく繋がる快適性など、運転者の意図に忠実で直線的な応答をめざしています。同車種では、「DIRECT4」(運転状況や路面状態に応じて前後の駆動力をコントロールする四輪駆動力システム)搭載の RZ450e AWD と、 軽量の前輪駆動で余り有る航続距離を生み出す RZ300e FWD の、2つのモデルを提供しています。
RZ は、駆動用バッテリーについて大容量リチウムイオン電池セルを採用し、バッテリー総電力量:71.40 kWh の電池パックを搭載。またRZ450e の後部および RZ300e の前部に、SiC(Silicon Carbide/炭化ケイ素)素子を採用した高効率な Inverter(直流から交流に変換する装置)を使用、これらにより航続距離(以下)の伸長に貢献しています。
一充電走行距離(※2)(国土交通省審査値)/WLTC モード(※3)
RZ450e AWD 494 [534(※4)] km
RZ300e FWD 599 [530(※5)] km
(※2)一充電走行距離:1回の満充電の状態で連続走行可能な距離
(※3)WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モード:市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モード
(※4)3.18インチタイヤ装着時
(※5)4.20インチタイヤ装着時
RZ はまた、車両の走行状態に応じた走行音響により快適な運転空間を演出する ASC(※6)を採用。モーター音が乗員へ心地良く響く様、音色や音響伝達特性にもこだわった調整を行っています。さらに床下バッテリーに遮音壁としての機能を持たせたほか、Hood(ボンネット)開口部全周へのシール採用による見切り部(境界線)からの吹出し抑制で、車室周りにおける風切音の変動を低減。前後席のアコースティック・ガラス(※7)に加え、新断面ガラスラン(樹脂製のシール部品)を採用することで、高速走行時においても車室での会話を損なわない静粛性を実現しています。
(※6)ASC(Active Sound Control):車室の前方から車内に向けて特殊な音を付加し、実際のエンジン音や排気音などと協調させることで、運転者が加速感やエンジンの状態を、より実感しやすくするためのシステム
(※7)アコースティック・ガラス:2枚のガラスの間に遮音中間膜をサンドイッチ状に挟んだ高遮音性ガラス
⇧LEXUS RZ450e、外観
⇧LEXUS RZ450e、ボンネット(米:Hood)内部とダッシュボードの様子
左側に Converter(交流から直流に変換する装置)(DENSO)、右側に補機バッテリー(GS YUASA)が確認できます。
③出展ブース・サービス紹介/VUEVO(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)
VUEVO VUEVO(ビューボ) | みんなの会話を視覚化し、聞こえの違いをつなぐサービス は、「ピクシーダストテクノロジーズ株式会社」 Pixie Dust Technologies, Inc. が提供する、複数人による会議等で「誰が」「何を」話したかが直感的に知覚できる、会話を即時に視覚化するサービスです。
具体的には、発話内容を360度の全方向から集音し、発話内容より即時に発話者の方向を特定。精度の高い音声認識で正確なテキスト変換(文字起こし)と方向表示を実現します。また、直感的なユーザーインターフェース(PC 等のモニター画面)により、会話や会議の進行中でも発話内容とともに発話者の方向をわかりやすく表示します。最大8方向の表示が可能で、視覚的に見分けがつきやすい専用カラーを各方向に配色しています。
さらに、AI を利用して即時に会話を自動要約することで、議論の内容の振り返りができ、スムーズな会議進行をサポートします。会議後には「タイトル・概要・会話の流れ」を自動生成し、議事録作成の負担を軽減します。また、日本語を含む23ヶ国語の即時翻訳に対応しており、発話者ごとに言語を設定できるため、1台のマイクで複数言語を即時翻訳できます。表示言語は、ユーザーごとに個別設定が可能です。
⇧VUEVO の出展ブースと、ワイヤレスマイク・ユーザーインターフェースによる demonstration の様子
View of Voice 事業部 Director の伊田健一氏による demonstration (会話の実演)に参加、丁寧かつ貴重なサービス説明を受けることができました。
※参考文献
『自動車業界におけるラグジュアリーブランド戦略』 pdf02.pdf 、髙田敦史、2018年(平成30年)、中央大学大学院 戦略経営研究科
『45歳の壁 55歳の谷―自分らしく「勝つ!」サラリーマンのための6つのシナリオ』、髙田敦史、2023年(令和5年)、高陵社書店