【第43回】伝統的価値観(Traditional Values)《其ノ四》―トランプ大統領令(Trump’s Executive Orders)が決す多様性の終止(Ending Diversity)―
※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
①第2次政権就任「初日」署名の「大統領令」
2025年1月20日、Donald Trump 米国大統領が第2次政権就任初日に42本もの「大統領令」(Executive Orders)に署名。選挙戦での公約を「忠実」かつ「迅速」に実行するとともに、少なくとも2010年代以降(日本を含む)西側民主主義国の社会を跋扈した、米国発のリベラル色一掃を図る姿勢を鮮明にしました。これら「初日」に発令された内容は、緊急かつ重要なものと考えられます。また内訳は、「行政命令」(Executive Order)26本、「大統領覚書」(Presidential Memorandum)12本、「布告」(Presidential Proclamation)4本となります。
同大統領は就任演説(Inaugural Address)The Inaugural Address – The White House の中で、『Today, I will sign a series of historic executive orders. With these actions, we will begin the complete restoration of America and the revolution of common sense. It’s all about common sense.(本日、私は一連の歴史的な大統領令に署名します。これらの行動によって、私達は米国の全面的な復活と良識の革命を開始します。良識がすべてなのです。)』と述べました。筆者はこの「良識の革命」を、「伝統的価値観」(古き良き米国/Good Old America)への回帰を黙示する、至極尋常で普遍的また実直なものと受け止めました。
【参考】就任演説(President Donald J. Trump's Inaugural Address in Washington, D.C., on January 20, 2025.)
President Trump's Inaugural Address - Top Stories - U.S. Department of State - Videos
【参考】米国保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」専門家による(上述)「大統領令」分析 Heritage Experts Analyze Trump Executive Orders
以下は、公約分野別に取り纏めた一覧リストです。(「ホワイトハウス」ウェブサイト内の「大統領令」ページ Presidential Actions – The White House を基に筆者作成)これらは、国際社会(西側民主主義国)とりわけ日本(政府・大手企業・教育機関および大手メディア)が今後辿るであろう社会潮流に対する、直接的かつ大きな波及が想定されるものから上段に記載しています。
②米国大統領が有する権限と限界
「大統領令」は、米国憲法に規定された、「行政組織」の長たる大統領に属する「執行権」(Executive Power)に基づき、大統領の署名一つで連邦政府(省庁)や軍に命令しうる強力な権限です。「行政命令」(Executive Order)や「大統領覚書」(Presidential Memorandum)「布告」(Presidential Proclamation)などの形式があり、署名する「大統領令」の数に制限は課されていません。
「大統領令」(行政命令・大統領覚書)は米国民に対して下される命令ではなく、「行政命令」を通して間接的に影響を及ぼすことになります。また政策を形成する議会は、あらゆる政策について隅々まで詳細に法律の文言で定めることはできず、「法執行」を担う大統領に「裁量」を与えています。この「裁量」の範囲内で、具体的にどの様に「法執行」をすべきかを、「行政組織」に示す手段が「行政命令」となります。
発令には議会の承認や新たな法律作成が不要であり、策定された規則や規制は法律と同等の力をもつため、大統領による迅速な政策実現の手段として用いられてきました。一方で米国政治体制の根幹である「三権分立制」の下、政府機関の活動に必要な予算を承認する権限は議会にあるため、議会が「大統領令」の執行に必要な予算を承認しない場合、「大統領令」は効力を失います。また野党や企業・団体等が「大統領令」内容に異議を唱えて提訴し司法で違憲判決が出される場合も同様です。
※参考文献
『アメリカ大統領の権限とその限界―トランプ大統領はどこまでできるか』、2018年(平成30年)、東京財団政策研究所(監修)、久保文明・阿川尚之・梅川健(編集)、日本評論社
『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』、2024年(令和6年)、会田弘継、東洋経済新報社
『アメリカにおけるデモクラシーについて』、Alexis de Tocqueville、岩永健吉郎(訳)、2015年(平成27年)、中公クラシックス
『トランプ貿易戦争:日本を揺るがす米中衝突』、2018年(平成30年)、木内登英、日本経済新聞出版社
『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く』、2018年(平成30年)、渡瀬裕哉、産学社
『トランプ自伝:不動産王にビジネスを学ぶ』、2008年(平成20年)、Donald Trump with Tony Schwartz、相原真理子(訳)、ちくま書房