【第8回】「1970年日本万国博覧会」(World Expo 1970)遺産の継承―「千里丘陵」から「夢洲(ゆめしま)」へ―《後篇》
※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
前回【第7回】のテーマに続いて、今回は「2025年日本国際博覧会(Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan)」(以下、「2025年大阪・関西万博」)の「夢洲(ゆめしま)」会場建設状況と、「1970年日本万国博覧会」(以下、「1970年大阪万博」)からの遺産の継承について触れたいと思います。
「2025年大阪・関西万博」は、2025年(令和7年)4月13日から10月13日までの184日間、大阪市此花区は大阪北港地区の人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催予定の国際博覧会です。日本での国際博覧会(登録博)開催は、2005年(平成17年)「愛知万博」(略称)以来20年ぶり、3回目であり、また大阪での開催としては1970年(昭和45年)「大阪万博」(略称)以来、実に55年ぶり、2回目となります。さらに直近では、2021年(令和3年)「東京オリンピック」以来の国家プロジェクトとなります。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、海外から160か国・地域、9国際機関(欧州連合、国際連合など)の参加が予定されています。
大阪港は日本の主要な国際貿易港(五大港)の一つであり、2004年(平成16年)に「スーパー中枢港湾」(※1)指定を神戸港とともに受け、また2010年(平成22年)に港湾法上の「国際戦略港湾」(※2)に指定されています。港則法・関税法上は、神戸港・尼崎西宮芦屋港・堺泉北港と合わせた総称である「阪神港」の一部とみなされ、阪神港大阪区となります。大阪市此花区の「大阪北港」地区では、沖合の人工島として、「舞洲(まいしま)」および「夢洲(ゆめしま)」が建設され、コンテナ港となっています。一方、同市住之江区の「大阪南港」地区では、人工島として「咲州(さきしま)」が建設され、主な施設として「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」(旧称:大阪ワールドトレードセンタービルディング、WTC、通称:コスモタワー)や「ATC」(アジア太平洋トレードセンター)、「大阪国際見本市会場」(インテックス大阪)などが挙げられます。
(※1)スーパー中枢港湾:コンテナターミナルのサービス水準の向上や港湾コストの低減を通じて基幹航路の寄港頻度を維持し、効率的な物流体系を構築することによって、産業の国際競争力の強化と国民生活の安定を図ることを目的とした政策
(※2)国際戦略港湾:国際基幹航路の我が国への寄港を維持・拡大することにより、企業の立地環境を向上させ、我が国の国際競争力を強化させることを目的とした政策
⇧「咲洲」にある「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」43階の「公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会」(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)受付入口、この日は「開幕まで325日」のカウントダウン
同会の会長(代表理事)は「一般社団法人 日本経済団体連合会」会長の十倉雅和氏。事務総長(代表理事)には「独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)」元理事長の石毛博行氏。また副会長(理事)には、「公益社団法人 関西経済連合会」会長の松本正義氏、「関西商工会議所連合会」会長で「大阪商工会議所」会頭の鳥井信吾氏、「公益社団法人 経済同友会」代表幹事の新浪剛史、大阪府知事の吉村洋文氏、大阪市長の横山英幸氏、「関西広域連合」広域連合長の三日月大造氏など、関西の主な自治体・経済団体のトップが名を連ねています。
⇧「咲洲」の「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」55階展望台から望む、「夢洲」会場全景
手前に「咲州」、右手奥に「舞洲」、また「咲州⇔夢洲」間の往来に「咲夢(さきゆめ)トンネル」(海底トンネル)、「夢洲⇔舞洲」間の往来に「夢舞大橋(ゆめまいおおはし)」(写真右手の白い橋)が利用可能となっています。写真左は約4年前、2020年(令和2年)1月時点、右は今回、2024年(令和6年)5月現在の「夢洲」の様子です。比較すると、現在は「大屋根リング」の他、いくつかのパビリオンの建設状況が確認できます。
⇧「2025年大阪・関西万博」会場のシンボルとなる「大屋根リング」、手前は「コンテナターミナル」
「大屋根リング」は、「2025年大阪・関西万博」会場デザインプロデューサーで建築家の藤本壮介氏によるデザイン。完成時には建築面積(水平投影面積):約60,000平方メートル、高さ:12メートル(外側は20メートル)、内径:約615メートルの、世界最大級の木造建築物となります。現在、全体の8割程度が完成しており、去る5月21日には夜間照明の試験点灯が報道陣向けに公開されました。
⇧「夢咲トンネル」の「咲洲」側入口、全長:約2,100メートル、海底トンネル部:水深約20メートル、(右下)「夢洲」側へトンネルを抜けるとすぐ眼前に「大屋根リング」の建設現場
「夢咲トンネル」は2009年(平成21年)8月に道路部分が開通、今後「2025年大阪・関西万博」開幕に合わせて「Osaka Metro中央線」も開通し(北港テクノポート線)、2024年度までに、「咲洲」側の「コスモスクエア駅」から「夢洲」に現在建設中の「夢洲駅」まで延伸される予定です。
⇧「夢洲」に入り、北東部の「コンテナターミナル」側から望む、万博会場の「大屋根リング」建設現場方面
特徴的な構造の木造建築物が多数のクレーン車とともに、眼前の端から端まで壮大に広がっています。写真左上では「大阪ヘルスケアパビリオン」の姿もみえます。
⇧「夢洲」へのもう一つのルートである道路橋「夢舞大橋」(橋長:877メートル、浮体橋部分:410メートル、桁下高:水面上24m)、「舞洲」側の様子
「夢舞大橋」は、「夢咲トンネル」の開通により2009年(平成21年)8月に開通(車両の通行止めが解除)。世界初の「浮体式旋回可動橋」としても知られ、橋が2つの浮桟橋(pontoon)により海に浮かんだ状態となっています。通常時は橋の下を小型船舶のみ航行可能ですが、大阪港の主航路で緊急事態が発生した場合には、「舞洲」側から「可動部」である橋自体を3隻の曳船で時計方向へ「舞洲」側へ旋回させ、大型船舶の航行も可能とする構造となっています。
⇧「夢洲」北東部の「コンテナターミナル」前で24時間営業中のコンビニエンスストア(セブンイレブン大阪夢洲店)、万博建設関係者の利用とともに、広大な駐車場には数多くのトレーラーなど大型車両がひっきりなし
⇧「夢洲」北東部の「コンテナターミナル」側から望む、「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」や「ATC」(アジア太平洋トレードセンター)など「咲洲」建築物群
限りのある人生において、世界的に長い歴史と伝統を有する大規模な国際イベント(国家プロジェクト)に、自国開催として参加・体験しうる機会は多くありません。それが「地元(の都道府県)での開催」で「2度に及ぶ」となれば尚更といえましょう。誕生時期がもう少し早くても遅くても、あるいは出身地が他の地域であっても、そうした体験は得がたいことでしょう。大規模な国際イベント(国家プロジェクト)の代表例として「オリンピック」と「万国(国際)博覧会」が挙げられます。双方の会期に着目すると、一般的に「オリンピック」が約2週間であるのに対して「万国(国際)博覧会」は約6か月間に及び、はるかに長い期間、人々に感動と興奮をもたらし、またその後の(国際)社会全般に大きな影響を及ぼしうると思われます。
筆者とその少し上の世代(1950年代後半~1960年代前半を中心とする生まれ)、特に大阪(関西)人にとって「1970年大阪万博」への思い入れは強いものがあり、幼少期~子供時代に受けた体験として、人格の基盤形成に大きな影響を与えています。当時4歳であった筆者にとって、極めておぼろげな記憶しかない中でも、強く印象に残っているのは、何といっても岡本太郎氏制作の「太陽の塔」の存在です。なお筆者にとって、一般的なグローバルイベントといった響きの「国際博覧会」よりも、どこか懐古的な響きの「万国博覧会」や「万博(バンパク)」の方に、強い愛着とこだわりがあります。その「1970年大阪万博」以来、実に半世紀以上(55年)の時を経て、再び大阪の地で開催される「2025年大阪・関西万博」は、隔世の感とともに感無量の想いがひとしおです。
そこで思うのは、「幼少期(過去)に見た未来(21世紀)」と「人生後半(現実)に生きる未来(21世紀)」との大きな隔たりです。筆者が幼少期から子供時代を過ごした1970年代は、「昭和」高度経済成長期の終盤にあたり、「おおらか」で「寛容な」精神が残っていた「古き良き」時代として回顧されます。そして「1970年大阪万博」の各国パビリオンで紹介された「科学技術」(製品やサービス)は、明るい未来社会(21世紀)を約束するかの如く夢と希望に満ちていました。また家庭では三世代が同居する「大家族」の、職場では「終身雇用」「年功序列」の(ここでも大家族的な)枠組みが十分に機能していた最後の時代であったと言えましょう。
約半世紀前の「1970年大阪万博」で掲げられたテーマは、「人類の進歩と調和」(Progress and Harmony for Mankind)でした。「現実の未来(21世紀)」が、あくまで「国体」護持を前提としたはずの(国際的)「調和」の理念から、「なし崩し」的に遠のいて行く様(さま)に危機感を覚えます。⇒詳細は【第19回】時論(【第19回】千思万考「伝統的価値観」(Traditional Values)―「時代精神」(Zeitgeist)の受容― | 株式会社有田アセットマネジメント|無形資産・有形資産を適切に管理、運用、保全し、次代へ安全に継承する資産管理会社 (aam.properties))を参照 「平成」の30年を経て、世はすでに2020年代を迎え「令和」の御代。「1970年大阪万博」の実体験を有しない世代へ、こうした問題意識と理念(遺産)が継承されんことを祈ります。