【第129回】「認知症」高齢者の金融機関口座凍結に伴う不条理《中篇》「認知症基本法」理念・「金融庁」指針と「FINMAC」/「受益者利益」観点
⇧大阪市中央区北浜の「証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)」大阪事務所入居ビル、「日本証券業協会」大阪地区協会も入居
※本稿内容は筆者の個人的見解であり、筆者所属組織(現在および過去)の公式見解を示すものではありません。
①「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の基本理念
2024年(令和6年)1月施行の「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」 共生社会の実現を推進するための認知症基本法 | e-Gov 法令検索 の要所を以下に掲示する。(赤字・下線筆者)
(基本理念)
第三条 認知症施策は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
一 全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること。
二 国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができるようにすること。
三 認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるようにするとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができるようにすること。
四 認知症の人の意向を十分に尊重しつつ、良質かつ適切な保健医療サービス及び福祉サービスが切れ目なく提供されること。
五 認知症の人に対する支援のみならず、その家族その他認知症の人と日常生活において密接な関係を有する者(以下「家族等」という。)に対する支援が適切に行われることにより、認知症の人及び家族等が地域において安心して日常生活を営むことができるようにすること。
六 認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究その他の共生社会の実現に資する研究等を推進するとともに、認知症及び軽度の認知機能の障害に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすための社会参加の在り方及び認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境の整備その他の事項に関する科学的知見に基づく研究等の成果を広く国民が享受できる環境を整備すること。
七 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の各関連分野における総合的な取組として行われること。
(日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者の責務)
第七条 公共交通事業者等(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成十八年法律第九十一号)第二条第五号の公共交通事業者等をいう。)、金融機関、小売業者その他の日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者(前条に規定する者を除く。第二十三条において同じ。)は、国及び地方公共団体が実施する認知症施策に協力するとともに、そのサービスを提供するに当たっては、その事業の遂行に支障のない範囲内において、認知症の人に対し必要かつ合理的な配慮をするよう努めなければならない。
②「金融庁」策定指針と「証券・金融商品あっせん相談センター」(FINMAC)
「特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター」(FINMAC:Financial Instruments Mediation Assistance Center) FINMAC – 株式、債券、投資信託、FXなどのトラブルでお困りの方、お気軽にご相談ください。 は、株や投資信託、FX など金融商品の取引に関するトラブルについての相談や苦情を受け付け、公正・中立な立場で解決を図る機関である。また相談・苦情処理で利用者の納得が得られない場合の制度として、斡旋委員(弁護士)による紛争解決のための斡旋制度も運営している。FINMAC は、「日本証券業協会」など法律に基づく6つの自主規制団体の連携・協力の下に運営されている機関であり、金融庁や法務省から認証を受けている。FINMAC の設立趣旨は、裁判による紛争解決と比べた「裁判外紛争解決手段」(ADR:Alternative Dispute Resolution)が持つ特長、①より簡便で迅速な解決②専門家の知識経験を生かしたきめ細やかで実情に即した解決③当事者のプライバシーに十分配慮した解決、によって金融分野における ADR の一層の充実を図る必要性に応えるものである。
母が現在の筆者と同じ立場にあった折、(筆者の)祖母の看護費用を都合するために出向いた銀行窓口で、家族(祖母の娘)であっても預金引き出しを断られたと嘆息していたことが思い起こされる。その母が現在、認知症を罹患し、金融機関口座が凍結状況にあることに関して筆者は FINMAC 大阪事務所へ相談を試みた。これに対して、認知症高齢者の金融機関口座資産保護につき金融庁などのガイドライン(指針)が設定されているが、認知症を発症して直ちに口座凍結されるものでないこと、また各金融機関における裁量(個別対応)の余地はあり、FINMAC としてこれに干渉するものでないこと、一般的に金融機関のうちでも証券会社より銀行において、やや柔軟な裁量 (個別対応)が図られているようだとの回答を得た。
【参考】金融庁「2023事務年度金融行政方針」 230829_allpages.pdf <実績/作業計画>36~37頁から抜粋引用(下線筆者)
・成年後見制度を利用者にとって安心かつ安全な制度とするため、各金融機関の後見制度支援預貯金及び後見制度支援信託の導入を引き続き促していく。
・認知判断能力が低下した顧客の取引を親族等が代理する場合における対応等について、顧客利便の向上を図りつつ、対応に伴う顧客及び関係者との間でのトラブルを未然に防止する観点から、後見制度支援預貯金等の導入状況調査の結果も踏まえて、金融機関及び業界団体との対話を行い、更なる取組を支援していく。
・金融機関における更なる認知症サポーターの養成に向け、引き続き、認知症サポーターの普及啓発及び周知のための取組を実施する。
・ 投資家の能力や状況に応じた柔軟な顧客対応に向け、業界と引き続き議論していく。
・ 内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」における、高齢者の認知機能に合わせた金融取引の支援に係る社会実装のプロジェクトが開始されたところ、高齢顧客の金融取引における課題解決に向けた研究へのサポートも行っていく。


③認知症高齢者顧客・金融機関に係る「信託法」「信託業法」の規範定立/「受益者の利益」の観点
「認知症」高齢者の金融機関口座凍結に係る事案に対し、法的三段論法に則り「信託法」 信託法 | e-Gov 法令検索 および「信託業法」 信託業法 | e-Gov 法令検索 から規範定立する。「認知症」高齢者の金融機関口座凍結は、「信託法」上の「受益者(高齢者本人)の利益」(本人の不利益)に該当するものと筆者は考える。以下に要点(条文)を抜粋し参照する。(赤字・下線筆者)
■信託法
第一章 総則
第二条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。
一 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約
二 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言
三 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示
3 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。
4 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。
5 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
6 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。
7 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。
第六章 信託の変更、併合及び分割
第一節 信託の変更
第百四十九条 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定めるものによりすることができる。この場合において、受託者は、第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げるときは委託者及び受益者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
一 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 受託者及び受益者の合意
二 信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき 受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示
3 前二項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者による受託者に対する意思表示によってすることができる。この場合において、第二号に掲げるときは、受託者は、委託者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
一 受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 委託者及び受益者
二 信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 受益者
4 前三項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
5 委託者が現に存しない場合においては、第一項及び第三項第一号の規定は適用せず、第二項中「第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げるときは委託者及び受益者に対し」とあるのは、「第二号に掲げるときは、受益者に対し」とする。
※参考文献
日野山大『証券マンひりひり日記』、三五館シンシャ/フォレスト出版、2026年






