【第56回】政治家・石原慎太郎氏の直言/(日・独)民族の矜恃と相克―「東京裁判」(The Tokyo Trial)「現行憲法制定」に端を発す「戦後80年」―

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
①「政治家」石原慎太郎氏/「東京裁判」と「米欧統治の歴史観」
「大東亜戦争(対米戦争)後80年」の本年、「芥川賞作家」で国会議員・東京都知事を務めた「政治家」石原慎太郎氏の遺した歴史観を本稿で取り上げる。氏は1932年(昭和7年)兵庫県神戸市生まれの「昭和一桁」世代であり、「昭和」「平成」「令和」を通じ國體の在り様に直言を呈した憂国の論客である。
■東京裁判(極東国際軍事裁判/The Tokyo Trial|International Military Tribunal Far East)は、1946年(昭和21年)5月3日~1948年(昭和23年)11月12日において、東京都新宿区市ヶ谷台の陸軍士官学校講堂(現・市ヶ谷記念館)で執行された。これは戦勝国(連合国)が支配者として一方的かつ徹底的に敗戦国を裁き、戦勝国側の「戦争犯罪」(侵略行為や虐殺行為)は完全に免責・不問に付されたものと言われている。米国による広島・長崎への原子爆弾(核兵器)投下はその最たるものであることは自明である。また「平和に対する罪」=「A級」として新しく設けられた戦争犯罪カテゴリーは、従前の国際法に存在しないものであった。にもかかわらず出席した幾多の弁護人による、これは「事後法」であるとの主張はすべて無視され裁判が遂行された。
同氏は、2014年(平成26年)2月12日の「第186回国会 衆議院予算委員会質問」 第186回国会 予算委員会 第6号(平成26年2月12日(水曜日)) において、次の様に述べている。(抜粋・引用)
『この裁判というものが、A級戦犯、そういった法的根拠のない罪状を科せられた方たちを裁き、死刑に処し、しかも、その方たちが(靖國神社に)合祀されているということでいろいろな立場の方々から忌避されているということは、私は、これはやはり、この際、国家としてこの問題をはっきりして、それを建前に、総理なら総理の参拝というものを批判する人たちにはっきり物を言ったらよろしいんじゃないかと思う。』
■GHQ(※1)司令官 Douglas MacArthurは、戦後占領政策と同時に明治憲法の改正により、日本の長い歴史と伝統ある國體解体を推し進めた。1947年(昭和22年)の現行憲法制定は、明治憲法75条「憲法及び皇室典範は、摂政を置いている間は、変更することができない」の類推違反であるとされる。また戦時国際法・ハーグ陸戦法規第43条「戦勝国が敗戦国を統治するときには、その国の法律に従わなければならない」にも違反している。現行憲法はまさに、GHQ の強い意向により、わずか8日間で、しかも草案を英文で作成されたものである。
石原慎太郎氏は、2014年(平成26年)10月30日の「第187回国会 衆議院予算委員会質問」 第187回国会 予算委員会 第4号(平成26年10月30日(木曜日)) において、次の様に述べている。(抜粋・引用)
『戦勝国アメリカあるいはその他の連合軍にとって、まさにこの漫画(1945年8月19日付「ニューヨーク・タイムズ」掲載(※2))が表示するような、醜悪で非常に危険な存在であった日本を、これから、天皇をいかに扱うかという問題も含めて、いかに統治解体するかということで占領が始まったわけですけれども、その統治解体の有効なすべとして、一方的につくられた憲法が私たちに押しつけられたわけであります。』
氏は GHQ 主導で制定された現行憲法は「無効」であって、「改正」でなく「破棄」の上、自主憲法を制定すべきと主張した。上記の漫画の件(くだり)には続きがあり、晩年の著書『日本よ、完全自立を』で、次の様に述べている。(抜粋・引用)
『これはおよそ七十年前に日本とドイツが戦争に敗れ無条件降伏をした直後にアメリカの代表的新聞ともいえるニューヨークタイムズの日本に関する論説に添えられていた漫画です。そして論説の本文には《この醜く危険な化け物は倒れはしたがまだまだ生きている。我々は世界の安全のためにこれから徹底してこの怪物を解体しなくてはならない。》とありました。対照的にドイツの降伏に関しては《この優秀な民族はナチスによって道を誤ったがその反省の上に立ち良き国をつくり直すだろう。われわれはそのために協力しよう》とありました。(中略)時を隔てて戦争に敗れた二つの同盟国に関する論説はきわめて対照的です。』
またドイツが敗戦後示した姿勢について日本に比して述べている。(抜粋・引用)
『同盟国として戦いに敗れたドイツは降伏の際連合国に三つの条件をつきつけこれが受け入れられぬ限り徹底して戦うと宣言していた。第一は敗戦の後のドイツの国家の基本法たる憲法はドイツ人自身が作る。第二は戦後の子弟の教育方針はナチズムへの反省をこめてドイツ人自身が決める。第三はいかに数少なくとも国軍はこれを保有する。これに比べて日本は二発の原爆に腰を抜かして全くの無条件で相手の軍門に下ったのだ。』
■同氏は、日米貿易摩擦の最中であった1989年(平成元年)に『「NO」と言える日本』を著し(共著)大きな話題を呼んだ。その中で、米国が日本に対してもつ人種偏見について言及している。(抜粋・引用)
『アメリカ人の人種偏見というのは、自国文化の自負に根を発しているわけで、確かにアメリカ人も含めたホワイトが近代をつくってきた、という自負はわかります。だが、その自負が強烈すぎてアメリカ自身、新興国だから、他国文化、とくにアジアへの視点に曇りがあるのではないか。』
そして同書の題名に関して以下の様に総括している。(抜粋・引用)
『「ノー」と言えるカードを持ちながら「ノー」を言わないような失敗は、悔んでも悔み切れない。相手は、感謝などせずに、さらにカサにかかって、あらたな恫喝をしてくるようになってしまう。ヤイター(Clayton Yeutter、Ronald Reagan 政権時の USTR(※3)代表)がはっきり言っていることなんです。日本には圧力をかけるのが一番いい、と。こんなことを言っていると、お前こそ大国アメリカを恫喝しようとして、危なくて仕方ない、などと妙な解釈をひねくり回す日本人がいますが、断わるまでもないことですけれど、屈辱的でない対等な日米関係というものが今こそ必要だから「ノー」と言うべきときには言っておくべきなのです。「ノー」をちらつかせて、バーゲン(bargain/取引)をしなくてはなりません。』
また同氏はその公式ウェブサイト上で、より根底的で長い時間軸における歴史的事実を問うている。それは、大航海時代(15世紀~17世紀)に始まり列強の帝国主義の動き(19世紀)を経て現在に至る、欧米諸国による数世紀に跨る有色民族統治についてである。 歴史の蓋然性について ー白人世界支配は終わったー|コラム|石原慎太郎公式サイト | 宣戦布告.net (抜粋・引用)
『つまり中世期以後の歴史の本流はキリスト教圏の白人、つまりヨーロッパの白人による、他のほとんど全ての有色人種の土地への一方的な侵略と植民地化と収奪による白人の繁栄の歴史でした。アフリカや中東、或いは東南アジアの全ての地域は西欧諸国の進出によって国境は区分され植民地化され一方的な隷属を強いられてきたのです。それはまぎれもない事実であり歴史における現実でした。』
『今日声高に人権と民主主義を説いているアメリカもまたあの厖大なアメリカ大陸を、原住民だったアメリカインディアンを殺戮駆逐することで領有し国家として成立したのです。アメリカ大陸の東西を結ぶ大陸横断鉄道は白人たちが一方的に拉致してきて鉄道建設のために働かせた厖大な数のシナ人奴隷によって建設されたのです。』
なお筆者の認識では、この統治側の対象からドイツ(およびドイツ系米国人)を除外したい。ドイツは神聖ローマ帝国の系譜を継ぐ、長い歴史を有する極めて卓越した民族・大国といえる。にもかかわらず、日本同様に領邦国家の権限が強かったため、中央集権体制と統一国家の形成が遅れた(19世紀後半)。そうした歴史の綾から、対外的な(有色人種の土地への)植民地獲得の動きは他の欧米諸国と比して極めて小さかった。また20世紀に入っても第一次世界大戦での敗戦に続き、第二次世界大戦の敗戦国として、これまた日本同様に、戦勝国(連合国)から Nuremberg 裁判において、一方的かつ徹底的に裁かれる立場にあった。あたかも出る杭が打たれるが如く、その卓越性故に国力を削がれたのである。剰え(あまつさえ)、米国・英国・フランス・ソビエト連邦の4ヶ国による「分割統治」と、この後生じた Ideology 陣営(自由主義社会 × 社会主義社会)対立の煽りを受け、1989年まで長らく続いた「東西分断」の悲劇を被っている。
(※1)GHQ:General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers、連合国軍最高司令官総司令部(事実上の米国単独による日本国占領機関)
(※2)「FOR HIS OWN GOOD」というタイトルの漫画と付属記事、「JAPAN」と付された醜悪な顔、その大きく開けた口内から「MILITARISM」と付された黒い虫歯を、「ALLIED TERMS」と付されたこれまた大きな「やっとこ」で引き抜かんとする図
(※3)USTR:「米国通商代表部」(The Office of the United States Trade Representative)
②「作家・知識人」石原慎太郎氏
(執筆中)
③石原裕次郎氏の兄たる存在
(執筆中)
※参考文献
石原慎太郎『日本よ、完全自立を』、2018年(平成30年)、文藝春秋
石原慎太郎『「NO」と言える日本:新日米関係の方策』、1989年(平成元年)、光文社
保阪正康『昭和天皇(上下)』、2019年(令和元年)、朝日新聞出版
石原慎太郎『弟』、1996年(平成8年)、幻冬舎
石原慎太郎『太陽の季節』、1957年(昭和32年)、新潮社
石原慎太郎公式ウェブサイト 石原慎太郎公式サイト