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【第28回】ドイツ連邦共和国(Bundesrepublik Deutschland)挿話《其ノ三》―脳神経学博士(Ph.D. in Neurology)による音楽療法の学識― 

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

ドイツ連邦共和国(英:Federal Republic of Germany/独:Bundesrepublik Deutschland)(以下、「ドイツ」)は欧州の中央部に位置し、9か国と国境を接しています。人口は8,300万人超と欧州連合(以下、「EU」)加盟国中で最大であり、また面積は357,588 平方キロメートルとEU 加盟国中で4番目に大きく、最も長い川はライン川Rheinで865 キロメートルを有します。同国は、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクとともに、6つのEU 創設国の1つであり、現在では米国、中国、日本に次ぐ世界第4位(2023年時点)の経済大国(※1)として、EU 加盟国中で最大の経済力を有しています。

(※1)2023年の「名目国内総生産」(GDP:Gross Domestic Product)で、ドイツは日本を抜いて世界3位へ

ドイツはまた歴史上、産業(自動車・化学・電機・医薬等)、科学技術/発明(物理・化学・数学・医薬・宇宙開発等)、哲学思想、芸術文化(クラシック音楽・文学・ベルリン国際映画祭等)などの極めて多分野にわたり、世界に傑出した民族性をもつ国として知られます。このうち、医薬分野でも多くの偉人を輩出、世界へ数多の功績を残しています。その中で「脳神経学」Neurology)における「認知症」Dementiaの領域においては、ドイツ人医学者・博士(Ph.D.)の Aloysius "Alois" Alzheimer 氏とその研究成果があまりにも著名です。

同氏は、嫉妬妄想・記憶力低下などを主訴とする51歳の女性患者 Auguste Deter の脳組織を調査した症例について、1906年の「第37回南西ドイツ精神科医学会」において発表を行いました。この症例は2種類の病変、すなわち

①「アミロイドβ(Amyloid β)」と呼ばれる特異な「蛋白質」が線維状に沈着してできる染み「老人斑」(ろうじんはん
②「タウ(Tau)蛋白質」がリン酸化などの修飾を受けて線維化(もつれ)を起こす「神経原線維変化」(しんけいげんせんいへんか)

という現象に関するものでした。これが後に「アルツハイマー病」(AD:Alzheimer's disease)、いわゆる「認知症」と呼ばれる疾患の多くを占めるものとして、広く知られる様になり現在も主流となっています。同が克明に記録した「アルツハイマー病」という疾患概念は、「ミュンヘン王立精神病院」における彼の師であり院長の、ドイツ人医学者・博士 Emil Kraepelin 氏の1910年の著書、『Textbook of Psychiatry』で大きく取り上げられ、現在も疾患名として確立されています。

筆者は2024年(令和6年)より勤務先(NTTグループ)で介護休職を申請の上、母(要介護5)の在宅介護を続けています。母の症状(Symptom)で最も懸念されるものが「認知症」です。「厚生労働省」の定義(知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp))によると、「認知症」とは「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」とあります。また「認知症」を引き起こす最多のものは「アルツハイマー病」(前述)など、「海馬」(hippocampus/大脳側頭葉の内側にある部位)等の神経細胞の萎縮や、神経細胞の接点(synapse)を含めた減少がみられる、「神経変性疾患」と呼ばれる病気です。急激に高齢化が進む日本においては、「平均寿命」とともに「健康寿命」をいかに延ばすかが肝要との考え方に大いに首肯するところです。

⇧当社海外渉外顧問(無償)を務める Wolf(筆者内縁)、高さ300mを誇る超高層複合ビル「あべのハルカス(58階)SKY GARDEN 300」における、過日の夕食風景

Wolf は「脳神経学」分野における博士、および「心理学」(Psychology)分野における修士の学位を有し、母国ドイツから数年前に来日した高度の専門家です。彼女はまた極めて献身的な人間的魅力に満ちた女性であり、その旺盛な好奇心と行動力により、主に欧州、アフリカ、中東、および東アジアへの現地視察に伴い、定期的に最新の知見を当社へもたらしています。Wolf の極めて卓越した見識も参考に、「認知症」への向き合い方を考察しています。その中で「音楽療法」(music therapy)と「絶対音感」(absolute pitch)について取り上げたいと思います。

筆者の母は偶然にも、英語の「chord」や「harmony」の日本語にあたる単語を名前にもち、若い時期に音楽と英語の教師でもありました。生涯の趣味で生き甲斐でもある、ピアノ・バイオリンの演奏やコーラス、また英検受験や英会話レッスンについて、母がわずか1年ほど前までは自在に扱えていたものが、(認知症の進行に伴い)いま現在、その意欲と能力をほぼ失いつつあることが残念でなりません。「認知機能」(記憶、判断力など)と「感性」(絶対音感や語感など)の領域は機序が相違している様に感じられ、「音楽療法」や「芸術療法」などの方向性に、今後の一縷の望みを託す思いです。

⇧大変お世話になっている介護施設内の電子ピアノ

「音楽療法」とは、「受動的」に音楽を聞いたり「能動的」に歌唱や楽器演奏を行う際の、『音楽のもつ生理的・心理的・社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的・計画的に使用すること』(「日本音楽療法学会」の定義)とされています。「音楽療法」は脳の活性化につながり、rehabilitation の効果を高めるとされます。とりわけ、高齢者や「認知症」には、「音楽療法」を通じて記憶の底に残る「昔の思い出の曲」を用いることで、心の安定をもたらし周辺症状の緩和に役立つとされます。

認知症」進行の予防としては、歌いながら楽器を奏でるなど、2つの動作を同時に行うことが有効とされています。特にピアノやバイオリンなどの演奏では、両手(両指)を同時に用い、かつ左右で異なる動き(異なるリズム)をとることで、脳に一種の報酬(dopamine を放出)が与えられ、脳の仕組みが変化しやすくなるとされます。また、自分の手指の動きの良し悪しが音に明らかに反映され、音と動きを結ぶ脳の回路が新しくできるともいわれます。さらに楽器を用いた rehabilitation 後の脳の働きを機能的MRI(Magnetic Resonance Imaging/磁気共鳴画像)で調べると、手指を動かす際の脳の「運動野」(うんどうや)に見られる余分な脳活動が減少したとの研究もあります。

最も興味深いのが「左右の手の独立性」です。右手の動きは「左脳」が、左手は「右脳」が支配しています。両手を動かす際には脳は左右両方が働いています。この時、左右の脳をつなぐ「橋」の役割を司る部位「脳梁」(のうりょう)を通って、脳から筋肉に送られる信号の一部が反対の脳に漏れるといわれています。これが「右手と左手の動きがつられる」現象をもたらすとされます。ところがピアニストの脳は、両手を独立して動かしても複雑な情報処理をする必要がないほど、余力を残しているといわれます。(「古屋晋一氏」著『ピアニストの脳を科学する/超絶技巧のメカニズム』を参照・要約)

また上記に関連するものとして「絶対音感」があります。これは「日常生活で聞こえてくる音」や楽器の演奏音や歌声などの「楽音」を聴いた際に、その「音名(音階)」を瞬時に認識し表現しうる希少な能力とされます。「音名」は日本では、イタリア語由来の『Do (ド)・Re (レ)・Mi (ミ)・Fa (ファ)・Sol (ソ)・La (ラ)・Si (シ)・Do(ド)』が一般的です。その際には、他の「基準」となる音との関係(高低差)から「相対的」に判断するのでなく、「絶対的」に認識することが特徴です。

さらに、英語等「表音文字」を用いる外国語(言語)の習得に関して、「聞き取り/発音/会話」能力の面において、「音感(音楽)」との関係性・共通性が大きい様に思われます。外国語の会話における強調(accent)、抑揚(intonation)、リズム/テンポなどの微細なニュアンスを、途中で日本語に変換することなく、そのまま「音」として聞き取り(input)発音(output)するプロセス、換言すると赤ん坊の様に、聞こえるがままに真似をする感覚が勘所(かんどころ)であろうと思われます。同時にこれが、日本人の「英会話」(話す能力)の上達につながるものと考えます。

筆者の母もまたこの「絶対音感」を有する節(ふし)があり、TVのCM等で流れる「音商標」に対して瞬時に「音名」を口にする場面に何度か接し、驚嘆をもって受け止めてきました(例えば「久光製薬株式会社」のTVCMで流れる『ヒ・サ・ミ・ツ♪』を『Mi (ミ)・La (ラ)・Mi (ミ)・Fa (ファ)♯』と認識する)。また「音名」とともに、楽曲を聴いた際の「調」の認識(長調・短調・転調など)にも鋭敏なところをみせます。筆者は本日の「時論」投稿を機に、Wolf と相談の上、母へ軽量の電子ピアノ(冒頭写真)を贈りました。母の「絶対音感」を拠り所に春の訪れ(「認知症」の回復)を待ちわび、十八番(おはこ)の曲「早春賦」(そうしゅんふ)(※1)の演奏とコーラスを再び耳にすることを願って。『春は名のみの 風の寒さや♪

(※1)早春賦:1913年(大正2年)発表の吉丸一昌氏作詞・中田章氏作曲の明治唱歌

※参考文献

『ピアニストの脳を科学する/超絶技巧のメカニズム』、古屋晋一、2012年(平成24年)、春秋社
『音楽療法入門/理論と実践Ⅰ』(An Introduction to Music Therapy:Theory and Practice)、William B. Davis, Kate E. Gfeller, Michael H. Thaut、栗林文雄(訳)、2015年(平成27年)、一麦出版社
『脳がいきいき!ピアノで指たいそう』、元吉ひろみ、2023年(令和5年)、株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
『アルツハイマー病の発見者:Alois Alzheimer』、渡辺正仁、2015年(平成27年)、保健医療学雑誌6 (2)
『ドイツの現状 2023』(Tatsachen über Deutschland 2023) 2022_Tatsachen_JP (deutschland.de)、2023年版、ドイツ連邦共和国大使館・総領事館(Deutsche Auslandsvertretungenin Japan

※関連学会情報

The Alzheimer’s Association International Conference」(AAIC)(AAIC | July 27-31, 2025 | Alzheimer's Association
Alzheimer’s Disease International」(ADI)(Home | Alzheimer's Disease International (ADI) (alzint.org)
International Conference on Alzheimer’s and Parkinson’s Diseases」(AD/PD)(AD/PD™ 2025 Alzheimer’s & Parkinson’s Diseases Conference (kenes.com)
「国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター」(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター (ncgg.go.jp)
「一般社団法人日本認知症学会」(HOME | 日本認知症学会 (dementia-japan.org)
「一般社団法人日本音楽療法学会」(日本音楽療法学会:公式サイト (jmta.jp)

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