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時論

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

①就任1ヶ月(2025/1/21~2025/2/20)で署名された「大統領令」

Donald Trump 米国大統領は就任(2025年1月20日)1ヶ月という極めて短期間に、波状的勢いとも形容しうる圧倒数(就任翌日から1ヶ月に74本、初日と合わせて116本)の「大統領令」(Executive Orders)に署名。政権閣僚人事(候補者の指名)や主要国首脳との会談、メディア対応などを含め、第1次政権時をはるかに上回る「実効性」と「即応性」をもって数多の政策課題に対処しています。

【参考】【第43回】伝統的価値観(Traditional Values)《其ノ四》―トランプ大統領令(Executive Orders)が決す多様性の終止(Ending Diversity)― | 株式会社有田アセットマネジメント|無形資産・有形資産を適切に管理、運用、保全し、次代へ安全に継承する資産管理会社

以下は、就任翌日から1ヶ月(2025/1/21~2025/2/20)で署名された「大統領令」を公約分野別に取り纏めた一覧リストです。(「ホワイトハウス」ウェブサイト内の「大統領令」ページ Presidential Actions – The White House を基に筆者作成)内訳は、「行政命令」(Executive Order)46本、「大統領覚書」Presidential Memorandum(調査中)、「布告」Presidential Proclamation(調査中)本となります。国際社会(西側民主主義国)、とりわけ日本(政府・大手企業・教育機関および大手メディア)は、時の米国政権の意向に追従してきました。これらリストは、国際社会が今後辿るであろう社会潮流への、直接かつ大きな波及が想定される項目から上段に記載しています。

②「建国の父」に警戒された民主主義の弊竇(へいとう)

京都大学名誉教授で社会思想家の佐伯啓思(さえきけいし)氏は、その著書『反・民主主義論』『さらば、民主主義―憲法と日本社会を問いなおす』等で、2016年大統領選挙における所謂「Trump 現象」を引き合いに、民主主義に関する卓見を述べています。(以下は筆者概括)

古代ギリシャにおける民主主義の本質
・民主主義(Democracy)が民衆(Demos)による統治(Kratia)である限り、民衆の歓呼により選出される指導者こそが民主政治の第一人者。
・古代ギリシャ社会の哲学者 Plato(プラトン)にとり既知であった点として、(君主支配/Monarchy や)貴族支配/Aristocracy を民衆支配/Demokratia に変えたからとて、政治が良くなる保証はどこにもなく、貴族が党派争いをした様に民衆もまた党派争いに陥る。
・民衆は自分たちの党派に属する貴族や有力者を支配者にせんとするため、民主主義とは自分たちの支配者を自ら選ぶ政治に他ならない。
・実際には意思や欲求、理想とする社会像や価値観は民衆個々に異なるため、党派の競い合いに敗れたものは政治に不満を募らせる。こうした民主主義は常に不満分子を生み出し、新たにその主張を実現してくれる指導者を選ぶ(政権交代)こととなる。そのために政治は「不安定」になり、その都度「右」へ「左」へと揺り動かされる。社会は「変化」(Change)し「改革」(Reform)されるものの先には進んでおらず、「進歩」(Progress)という観念は意味をなさない。そもそも政治の向かう方向に確固たる目的地など最初から存在しない。
さらに民衆の関心や不満が「多様化」するのにつれて共通了解を困難にし、「平等」の観念はわずかな「差異」や「差別」に対して民衆の意識を過敏にする。こうして社会を「改革」したはずが、そのことがますます問題を生み出し不満を生み出す。そして新たな「改革」への要求が高まり、それは永遠に繰り返され悪循環に陥るものとなる。

「建国の父」に警戒された民主主義
・古代ギリシャ社会では、高い敬神の心をもって、人知を超えた「神」や「自然」の秩序に沿う思想があった。一方で民主主義は、「人間」がその領分を超えて意思や欲求を充足せんとする「傲慢」に陥った政治体制として警戒された。
・民主主義は、無条件の「自由」をすべての人民に「平等」に付与することを前提とした「価値相対主義」といえる。そのため、人民のその時々の思いや知識を超えた、「真理」や「絶対的価値」といったものを否定する。
「米国建国の父」(Founding Fathers of the United States)の一人で第4代大統領の James Madison, Jr. は、民主主義は騒乱や闘争をもたらす危険極まりないもので、粗野な人民が政治を混乱させると考えた。また初代財務長官の Alexander Hamilton は、人民の友という仮面の方が、強力な政府権力よりもはるかに専制権力を生み出すと危惧した。 さらに、権利章典を起草した George Mason は、人民に大統領を選ばせるなど、盲人に色を当てさせるのと同様の愚行と述べた。
・各州の代表者などによる「共和主義」(Republicanism)政治は、「少数選良/賢者」(Elite)による討議で物事を決するもので、現在の民主主義と等値されるものではなかった。
・フランス人貴族の政治思想家 Alexis de Tocqueville は、その著書『De la démocratie en Amérique(アメリカの民主政治)』で、次の様に述べている。『民主主義は「平等」への強い情念を呼び覚ます。しかし、この期待はいずれ失望へと変わる。こうしたことは特に下層のものの絶えざる不満を生み出し、この「平等」を求める永遠の運動はひっきりなしに社会を「動揺」させる』

共和主義とは
・共和主義とは国の「公的」な事柄を重視する政治であり、「公的」な判断が可能な能力の持ち主でなければ政治に参加する資格はない。「私的」な感情や利益を政治に持ち込むことは理に適わない。
・そのためには一定の財産と自覚をもった市民でなくてはならず、それゆえ共和主義は、ある種の「少数選良/賢者」(Elite)主義に接近する。
・また公共性という視点をもった政治的指導者を得るには、「徳」を備えた人間の教育が必要となる。ここでいう「徳」とは、ある種の正義感や公平な視点、思慮深さ、決断する勇気といった「市民的徳」である。

Donald Trump 大統領に際立つ大衆感覚
・第二次世界大戦を経た冷戦以降、米国が直面している諸問題は、世界秩序構想への過度の関与、自由主義的な国際市場の形成、国際的な民主主義の理想、中東への介入とイスラム諸国との対立、日本や韓国との同盟に基づくアジア地域の安定、などである。
・米国は寛大な移民政策を採用したり、無為に世界の諸事態に関与している場合ではない。
・内向き志向へ回帰し内需優先を採らねば、米国経済はもはや再生しない。すなわち国内で経済をまわし医療や福祉を整備し雇用を生み出す等、国内の足場を固めることが先決。

また佐伯啓思氏は、大正時代に「民本主義」を唱えた思想家の吉野作造氏を引き合いに、「少数選良/賢者」に関する卓見を述べています。(以下は筆者概括)

・吉野作造氏は「民本主義」をして大衆を政治の「主動者」に置くものとし、形式上の主権が君主にあろうとも、その主権の行使は大衆の利益や意向に沿うものであるべきとの立場を唱えた。
・しかし、実際の政治を主導するのは「少数選良/賢者」でなければならず、多数の大衆(衆愚)に対する精神的指導者であらねばならない。
・また大衆の「民意」は雑然として日々刻々「右」に「左」に「動揺」する。しかしこの「動揺」は揺らぎながらも何らかの「不動の中心」(見えざる意思の主体)に向かうものである。そうした「不動の中心」を認識できる者が「少数選良/賢者」ではないか。
・「少数選良/賢者」に課された役割は、「世論」(状況や情緒で「動揺」する統計値)から、「輿論」(常識や理性に基づく「不動の中心」)を解釈すること。「時間」と「空間」を相対化、すなわち、過去や未来という長い「時間」と、世界という広い「空間」のうちに視座を置き、日々刻々「動揺」する状況から一定の距離を置いて眺める能力が求められる。

「米国第一主義」は、建国時に遡る「孤立主義」(Isolationism/Monroe Doctrine)に通底するものともいえます。また「清教徒」(Puritan)が英国から逃れて大西洋を渡り建国の祖となった米国では、その当初から「福音派」の流れが醸成されてきました。いみじくも、来年(2026年)の「建国250年」を Donald Trump 大統領の下で迎える米国。折しも日米両国が戦った「大東亜戦争(対米戦争)後80年」また「昭和百年」と重なり、「伝統的価値観」への回帰を黙示する点で意義深く思われます。

【関連】『Sylvester Stallone Is Latest Celeb to Back Trump, Calls Him a “Second George Washington” at Gala』,November 15, 2024,The Hollywood Reporter
Sylvester Stallone Calls Trump 'Second George Washington' at Gala

※参考文献

『反・民主主義論』、2016年(平成28年)、佐伯啓思、新潮社
『さらば、民主主義―憲法と日本社会を問いなおす』、2017年(平成29年)、佐伯啓思、朝日新聞出版
『自由と民主主義をもうやめる』、2008年(平成20年)、佐伯啓思、幻冬舎
『アメリカ大統領の権限とその限界―トランプ大統領はどこまでできるか』、2018年(平成30年)、東京財団政策研究所(監修)、久保文明・阿川尚之・梅川健(編集)、日本評論社
『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』、2024年(令和6年)、会田弘継、東洋経済新報社
『アメリカにおけるデモクラシーについて』(原題<仏>:De la démocratie en Amérique)、Alexis de Tocqueville、岩永健吉郎(訳)、2015年(平成27年)、中公クラシックス
『トランプ貿易戦争:日本を揺るがす米中衝突』、2018年(平成30年)、木内登英、日本経済新聞出版社
『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く』、2018年(平成30年)、渡瀬裕哉、産学社
『トランプ自伝:不動産王にビジネスを学ぶ』、2008年(平成20年)、Donald Trump with Tony Schwartz、相原真理子(訳)、ちくま書房

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