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時論

大阪市北区堂島の「NTT テレパーク堂島」、第40回株主総会で決議された「NTT Communications」(筆者も二十年来、勤仕貫徹)の社名消滅は甚だ遺憾(NTT docomo 傘下の社名へ変更)

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

①有吉佐和子『恍惚の人』と「介護の社会化」

今からおよそ半世紀前の1972年(昭和47年)に発表された、作家・有吉佐和子氏によるベストセラー恍惚(こうこつ)の人』は、近年の「認知症(Dementia)」(昭和期~平成期半ばの呼称は「痴呆症」)および「高齢者介護」問題に先鞭を付けた長編小説である。翌1973年(昭和48年)には森繁久弥氏、高峰秀子氏ら主演による映画化もされている。令和の現在、痴呆高齢者を扱った同書はますます今日性を強めている。

従来の「家族」(肉親)による介護負担を軽減し、高齢者介護を「社会全体」で支えるために2000年(平成12年「介護保険制度」が施行された。これは介護サービス提供に必要な費用等を、国民が納める保険料と公費(税金)で賄うものである。厚生労働省の「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」 001253798.pdf によれば、要介護・要支援認定者数は2025年(令和7年)度で約717万人である。この制度がなければ、「介護離職」によって職場は回らず介護負担に耐えかねた家庭崩壊が続出していた恐れもある。介護保険制度は高齢化の問題に「介護の社会化」という回答を用意したが、そのコストは膨大な財政負担となって私たちの肩にのしかかってくる。

筆者は勤務先(NTT グループ)で、時短勤務を経て2024年(令和6年)より介護休職を申請の上、母(要介護5)の介護を続けている。母の症状(Symptom)で最も懸念されるものが「認知症」である。当社海外渉外顧問で「脳神経学」博士である Wolf の卓越した見識も参考に、「認知症」への向き合い方を日々考察している。厚生労働省」の定義 知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) によると、「認知症」とは「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」とある。また「認知症」を引き起こす最多のものは「アルツハイマー病」など、「海馬」(hippocampus/大脳側頭葉の内側にある部位)等の神経細胞に萎縮や、神経細胞の接点(synapse)を含めた減少がみられる、「神経変性疾患」と呼ばれる病気である。

当初は、数年間続けた在宅介護の継続(通所介護主体)が筆者の本意であったが、冬季に罹患した褥瘡(床擦れ)による入院治療を機に老健施設への入所継続(事実上の施設介護)を余儀なくされ、現在に至っている。そこで筆者の取った選択は、自身が週の過半を介護施設の現場に入り込み、専門職スタッフの傍らで、肉親の介護実務を主体的に実践するものであった。具体的な内容は、母の食事介助(排泄・入浴等の介助は施設側の範疇)や訪問治療への立ち合い、個室での音楽療法(ピアノ演奏)や身体リハビリ(歩行練習等)・レクリエーション参画、また外部美容室等への外出付き添いなどである。これらに付随して、母名義資産の家族代理人として証券会社等との管理運用対応にも携わる。しかしそれらをもってしても、この1年余は、母の認知症と身体機能(特に脚力)低下の進行速度を辛うじて遅らせるのみであった様に感ずる。

いま振り返るに十余年前の筆者父逝去の後、少なくとも「令和」に入ってより、母の認知症が徐々に顕在化した様に記憶する。生来、勁烈 ( けいれつ )な性格で、前述の恍惚の人を揶揄していた母自身が、認知症を発症し「幼児退行」を伴う重い要介護者となるなど、筆者にとり夢にも思わぬ仕儀であった。また時期をほぼ同じくして、新型コロナウイルスをはじめとした感染症の拡大が社会を覆い、介護現場においても家族との面会に制約が課されるなど、悪条件が重なった。急激に高齢化が進む日本においては、「平均寿命」とともに「健康寿命」をいかに延ばすかが肝要との考え方に大いに首肯する。

②「介護・就業の両立」に向けた公的指針

厚生労働省「仕事と介護の両立~介護離職を防ぐために~」 仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~ |厚生労働省 によれば、家族の介護を抱えている従業員が仕事と介護を両立できる社会の実現を目指して、それに向けた課題や企業の両立支援策の状況を把握し、「介護休業」制度等の周知を行うなどの対策を総合的に推進している。

高齢者人口の増加とともに介護保険制度上の「要介護(要支援)認定者」数は増加しており、2022年(令和4年)1月末時点で約690万人に上る。一方「介護を行う側」は働き盛りの世代であり、企業の中核を担う従業員であることが多い。そうした中、計画性を伴う「育児」とは異なり、「介護」は(要介護の問題が)緩慢とはいえ突発的に発生することや、介護の期間や方策も多種多様であることから、仕事と介護の両立が困難となることも考えられる。このため、厚生労働省では、「育児・介護休業法」 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索 に定められた「介護休業制度」などの周知徹底を図り、企業及び従業員の課題を把握し事例集を作成するなど、介護を行っている従業員の継続就業を促進している。

「従業員側」は、多年にわたり継続的に介護を実施するにあたり一定の経済的負担が発生する。また介護が終了した後の生活を視野に入れても、余裕のある経済的基盤が求められる。そのため一般的には、介護に直面しても「早期退職」などを選択することなく、仕事と介護を両立するための制度を活用し、仕事を継続しながら介護を行うのが望ましい。また近年は、「定年退職」の後も再雇用制度の下に勤務を続ける傾向にある。一方「企業側」にとっても、経験を積んだ従業員や管理職など企業の中核となる人材が仕事と介護の両立に悩み、生産性の低下や離職を招くことは大きな損失である。「介護離職」を選択する従業員、あるいは心身ともにストレスを抱える従業員が増える前に、仕事と介護の両立支援の取組を開始することが必要である。

■また経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 main_20240326.pdf によれば、総人口の減少や「少子高齢化」の問題と相まって、労働力人口の減少(人手不足の深刻化)に直面する社会的背景を踏まえると、今一度、仕事と介護を巡る認識自体を改めていくことが必要となる。

すなわち従来(昭和期)は、専業主婦世帯が多く介護負担を家庭内で担いやすい環境にあったため、従業員の両親に介護が必要となった場合でも、配偶者や家族と連携するなど従業員個人の範疇(家庭内)で一定の対応ができた。また企業においても、経営課題としての重要性が顕在化しない状況にあったと言える。一方で現在は、企業活動の基盤となる労働力人口の減少(慢性的な人手不足)とともに、女性の社会進出に伴う共働き世帯も増加し、仕事と人生設計の連関が密接となってきている。こうした中で従業員一人一人の希少性が高まっており、「仕事と介護の両立支援」は、企業が今の時代を乗り越えるために必須課題となっている。こうした枠組変化への対応が日本の企業・社会に求められている。

また前述の通り、「育児」と比して「介護」に関する企業の自主的な取組はさほど進んでいない状況である。すなわち「仕事と介護の両立支援」に先進的に取り組む企業の割合はまだ一部に留まる。

経済産業省「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資 WG」のアンケート調査 010_02_00.pdf によれば、大企業(回答:3,523社)において育児・介護ともに、利用者への「需要や満足度等聴取」などを通じて「実態を把握した支援策」の充実が望まれる、としている。回答結果では、介護に関して自社実施制度の需要や満足度等の「聴取の取り組み」は、育児と比して約半数に留まる(育児:34.2%、介護:15.2%)。また中小企業(回答:6,397社)において育児・介護ともに、主な取組として「柔軟な勤務制度」(在宅勤務・時短勤務等)と「社内周知」などが中心、としている。回答結果では、育児に関してこうした取組を「いずれも特に行っていない企業」が18.7%であるのに対して、介護では27.5%に高止まりしている。

なお対投資家の観点から、育児に関しては「有価証券報告書」等の「従業員の状況」への記載項目として、「男性の育児休業取得率」等の盛り込みが増えてきている。介護に関しても今後は、「健康経営度調査」の評価項目への記載をはじめ、企業としての動機付けを高める方向で検討されつつある。

■さらに公益財団法人 長寿科学振興財団「老老介護・認認介護とは」 老老介護・認認介護とは | 健康長寿ネット によれば、老年人口と呼ばれる65歳以上の高齢者割合が25%を超えた「4人に1人が高齢者」時代における、老老介護」「認認介護」が増加している介護側の深刻な実態が取り上げられている。老老介護」とは、「高齢者」(親世代等)の介護を同じく「高齢者」(子供世代等)が行うものである。主に、ともに65歳以上の高齢の親子または夫婦、兄弟などにおいて、片方が「介護者」であり、もう片方が「被介護者」となる場合を指す。また「認認介護」も同様に、高齢の「認知症」患者の介護を同じく「認知症」を患う高齢の家族が行うものである。

「介護者」が高齢となると体力的・精神的負担が大きくなり、「被介護者」と共倒れの状態となることも考えられる。また外出機会も減少し、外部からの刺激が得られないことなどからストレスを抱え、認知症となるリスクも高まる。さらに「介護者」が夫で「要介護者」が妻の場合、家事が困難となる問題が生じることがある。妻が要介護者となるまで家事のほとんどを妻にしてもらっていた夫が、突如として炊事・掃除・洗濯・ごみ出し・資産管理等をこなす必要に迫られる。介護自体以上に家事の困難さを訴える場合が多いというのも、男性介護者の特徴の1つとなっている。

⇧「大川」(旧淀川)から分流し、「土佐堀川(南縁)」と中之島」を挟んで西流する「堂島川(北縁)」沿いの「NTT テレパーク堂島」

※参考文献

渡辺正仁『アルツハイマー病の発見者:Alois Alzheimer』、保健医療学雑誌6 (2)、2015年(平成27年)
池村義明『ドイツ精神医学の原典を読む』、医学書院、2008年(平成20年)
有吉佐和子『恍惚の人』、新潮社、1982年(昭和57年)

※関連学会情報

The Alzheimer’s Association International ConferenceAAIC AAIC | July 27-31, 2025 | Alzheimer's Association
Alzheimer’s Disease InternationalADI Home | Alzheimer's Disease International (ADI) (alzint.org)
International Conference on Alzheimer’s and Parkinson’s DiseasesAD/PD AD/PD™ 2025 Alzheimer’s & Parkinson’s Diseases Conference (kenes.com)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター (ncgg.go.jp)
一般社団法人日本認知症学会 HOME | 日本認知症学会 (dementia-japan.org)

 

著者プロフィール

有田 仁(Jin Arita)

1966年(昭和・丙午)睦月、大阪府堺市生まれの Ultra Generation。有田アセットマネジメント代表取締役、大阪工業大学大学院 知的財産研究科修了。NTT グループ(情報通信)・髙島屋(流通小売)等、三十年余の企業勤務の傍ら、より大所へ活動の場を求め、知的財産分野の学術研究・発表活動や、在日米国商工会議所・クラウドセキュリティアライアンス日本支部等、米国関連団体での公務に従事。

母方先祖は雲州松江藩に禄を食み、遠い姻戚に昭和改元時の宰相・若槻禮次郎も。連載コラム「時論」では森羅万象の領域にて、日本(対欧米)の歴史観や伝統的価値観の視座から平成・令和社会への違和感を問う。座右の銘は「温故知新」「和魂洋才」「古今東西」。この1年余、母の介護に勤しむ日々の中に悦びを覚える自分に気付く。

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