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⭐【第128回】「認知症」高齢者の金融機関口座凍結に係る沈思黙考《前篇》拡大する介護費用負担と「成年後見制度」現状課題(利用上の問題点)

⇧2023年3月当時に在宅介護の環境下、認知症を発症した筆者母と肝胆相照らす専門家 Wolf(当社海外渉外顧問/脳神経学博士)、一定の判断能力を有していた母は、その後3年余りの間に症状が進行(現在は施設介護)

※本稿内容は筆者の個人的見解であり、筆者所属組織(現在および過去)の公式見解を示すものではありません。

①「介護の社会(システム)化」と「認知症」高齢者への対峙

従来の「家族」(肉親)による介護負担を軽減し、高齢者介護を「社会全体」で支えるために2000年(平成12年)「介護保険法(介護保険制度)」が施行された。これは介護サービス提供に必要な費用等を、国民が納める保険料と公費(税金)で賄うものである。厚生労働省の「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」 001253798.pdf によれば、「要介護(要支援)認定者」数は2025年(令和7年)度で約717万人である。この制度がなければ、「介護離職」によって職場は回らず介護負担に耐えかねた家庭崩壊が続出していた恐れもある。介護保険制度は高齢化の問題に「介護の社会(システム)化」という回答を用意したが、そのコストは膨大な財政負担となって私たちの肩にのしかかってくる。

厚生労働省の最新の「介護保険事業状況報告(暫定)」 介護保険事業状況報告(暫定)(令和8年6月分)|厚生労働省によれば、2026年(令和8年)6月末時点の「要介護(要支援)認定者」数は約743万人で、要介護度内訳では、「要支援1」約110万人・「要支援2」約107万人・「要介護1」約154万人・「要介護2」約125万人・「要介護3」約95万人・「要介護4」約93万人・「要介護5」約58万人(筆者母はここに属する)という状況である。

筆者は勤務先(NTT グループ)で2024年(令和6年)より介護休職(無給)を経て2025年(令和7年)早期退職後も、母(要介護5)の介護を続けている。母の症状(Symptom)で最も懸念されるものが「認知症」(Dementia)である。当社海外渉外顧問で「脳神経学」博士である Wolf の卓越した見識も参考に、「認知症」への向き合い方を日々考察している。「厚生労働省」の定義 知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) によると、「認知症」とは「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」とある。また「認知症」を引き起こす最多のものは「アルツハイマー病」など、「海馬」(hippocampus/大脳側頭葉の内側にある部位)等の神経細胞に萎縮や、神経細胞の接点(synapse)を含めた減少がみられる、「神経変性疾患」と呼ばれる病気である。

当初は、数年間続けた在宅介護の継続(通所介護主体)が筆者の本意であったが、冬季に罹患した褥瘡(床擦れ)による入院治療を機に老健施設への入所継続(事実上の施設介護)を余儀なくされ、現在に至っている。そこで筆者の取った選択は、自身が週の過半を介護施設の現場に入り込み、専門職スタッフの傍らで、肉親の介護実務を主体的に実践するものであった。具体的な内容は、母の食事介助(排泄・入浴等の介助は施設側の範疇)や訪問治療への立ち合い、個室での音楽療法(ピアノ演奏)や身体 Rehabilitation(歩行練習等)・レクリエーション参画、また外部美容室等、近隣(娑婆)への外出機会の創出などである。これらに付随して、母名義資産の家族代理人として証券会社等との管理運用対応にも携わる。しかしそれらをもってしても、この2年余は、母の認知症と身体機能(特に脚力)低下の進行速度を辛うじて遅らせるのみであった様に感ずる。

【後日追記】日本経済新聞(2026年8月18日・21日付記事)によると、東京都内の有料老人ホームの入居時費用(中央値)が2026年1月時点で1000万円を超え、8年間で39%増加した。入居時費用の内訳は、家賃の前払い金や施設利用権購入費で、月額費用(中央値)も30万円近い高額(同15%増)となる。地価高騰や物価高を背景に「終(つい)のすみか」に係る家族負担が重くのしかかる。

老人ホームに手が届かない 東京の入居時費用1000万円、月額も値上げ - 日本経済新聞
終のすみか、「2段階住み替え」で費用減 自宅→サ高住→老人ホーム - 日本経済新聞

②「成年後見制度」の現状課題(制度利用上の問題点)

「成年後見」は、認知症や知的障害などで判断能力(事理弁識能力)が欠けたり不十分となったために財産管理や契約締結など「法律行為」の「意思表示」が困難な者に対して、本人の代理または補助を行う後見人(親族や弁護士・司法書士等の専門家)を選任し、本人を法的に保護・支援する制度である。2000年(平成12年)施行の民法改正により、従前の「禁治産・準禁治産制度」を廃止して設けられた。成年後見は、家庭裁判所が審判を行う「法定後見」と、本人の判断能力がまだあるうちに将来に備えて予め後見人を選び、委任契約を結んでおく「任意後見」からなる。また法定後見制度には本人の判断能力の程度に応じて、(1)「後見」(従前の「禁治産」)(2)「保佐」(従前の「準禁治産」)(3)「補助」(新設)の3類型がある。なお、段階認定により本人の状態進行が第三者から確認・把握しやすい要介護(要支援1・2および要介護1・2・3・4・5)と違い、認知症には段階認定がなされていない。

この成年後見制度に関する法改正は、高齢化の進展に伴い介護の問題が深刻化する中で、前述の介護保険法との同時施行(2000年4月)を目途に準備された経緯がある。しかし本制度の利用状況(厚生労働省の推計/令和7年)は、認知症患者数(65歳以上)の約700万人に対して利用者数が約18万人と、設置から四半世紀が経過した現在でも「約2.5%」という極めて低い利用率に留まっている。こうした実態にある中で、自分の大切な肉親を成年後見制度の下に置くには相当の熟慮と決断を要するといえよう。

本制度の使い勝手を表わす以下表は、法務省および家庭裁判所ウェブサイトを基に筆者作成。

法務省「成年後見登記制度」 成年後見制度・成年後見登記制度
法務省「民法等改正法の概要」 001465481.pdf
大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬のめやす」 119_R7.04_hosyumeyasu.pdf

③「成年後見制度」の見直し審議と施行工程

目下、硬直的な側面が垣間見える成年後見制度を見直す民法の改正案が国会で審議されている。以下は「公益社団法人 日本記者クラブ」 日本記者クラブ JapanNationalPressClub (JNPC) 主催、「終わらせることのできる後見」への転換と「強すぎる後見の権限」を見直すことを柱とした今回の制度見直しの背景と課題、および見直し後の社会福祉の体制を考えるシリーズ企画「どうなる成年後見」(全4回)である。第1回の最後で社会福祉士で同志社大学教授の永田祐(ながた・ゆう)氏が寄せた揮毫『猫は籠で飼えない』は、言い得て妙である。認知症高齢者本人の尊厳と利益(幸福)に供するような柔軟な制度運用が望まれる。

「民法等の一部を改正する法律」等は公布(令和8年6月24日)されたものの、その効力の発生(施行)は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」と定められている。 法務省:「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について 現在、喫緊の状況にある筆者と母には、「2年6月」は如何ともしがたい悠長な工程であり、そもそも国を挙げて見直しの方向に進んでいる既存制度に対し、今あえて係る(利用する)判断は現実的とは言いがたいと思われる。

著者プロフィール

有田 仁(Jin Arita)

1966年(昭和・丙午)大阪府堺市生まれ。有田アセットマネジメント代表取締役。大阪工業大学大学院 知的財産研究科修了。NTT(日本電信電話)グループ・髙島屋等勤務。NTT研究所系教授陣に師事し研究発表(国際標準化専攻)および米国系業界団体(米国商工会議所・Cloud Security Alliance 等)の運営やイベント企画に関与。出雲国・松江藩(雲州松平家)とその出身者である昭和改元時の宰相・若槻禮次郎、および大正期の東京弁護士会会長・岸清一に所縁あり。座右の銘は「温故知新」「和魂洋才」「古今東西」。

著書に『平成・令和社会への違和感と伝統的価値観の復古』(幻冬舎 2026年)。研究論文に『自動運転システムにおけるクラウドネットワークの通信遅延条件(共著)』(日本知財学会 2016年)『クラウドセキュリティ技術分野の知的財産戦略に関する研究』(大阪工大院・紀要 2016年)『クラウドセキュリティ技術に関する特許出願傾向と特性』(電子情報通信学会 2015年)等。

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