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時論

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

①IOWN が目指す低消費電力

11月18日、NTTNippon Telegraph and Telephone Corporation/日本電信電話株式会社)グループ(筆者も二十年来勤仕)NTT / NTTグループ | 日本電信電話株式会社は、『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』を出版しました。以下はそのニュースリリースからの引用です。

2024年(令和6年)10月8日構想発表から約5年で大きく進化、IOWNの「今」がわかる書籍 『IOWNの正体-NTT 限界打破のイノベーション-』発行 | ニュースリリース | NTT (group.ntt)

2019年5月の「IOWN(アイオン)構想」発表から約5年、IOWN はすでに初の商用サービス「APN IOWN1.0」の提供を開始し、推進団体である「IOWN Global Forum」には世界中から150を超える企業や団体が参加しています(2024年9月時点)。世界中に急速に広まりつつある IOWN とは一体何なのか。生成 AI やメタバース、あらゆるモノがネットにつながる IoT の普及を背景として、現在世界の電力消費量は急拡大しており、地球の持続可能性が大きな課題となっています。電力効率100倍(消費電力1/100)を目標に掲げる IOWN は、それら課題解決の切り札となってきます。IOWN がどのようにサステナブルな未来を実現していくのか、その技術的な背景や、私たちの生活・社会に与える影響、具体的なユースケースなどを幅広く紹介しています。これから新しいことにチャレンジする方、ビジネスを変えたいと思っている方、最先端の技術・トレンドを知っておきたい方など、本書を通じて多くの方々に IOWN 構想へのご理解とご賛同をいただき、共に IOWN 構想を実現する仲間になっていただきたい、という思いから、本書の発行にいたりました。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」(IOWN構想とは? その社会的背景と目的|NTT R&D Website (rd.ntt))とは、NTT が提唱する次世代通信基盤(端末の情報処理まで光化)です。その特徴は、情報を電気処理を行わず光波長信号のまま処理して伝送することにあり、2024年(令和6年)の仕様確定を経て、2030年代の実用化に向け開発が進められています。この IOWN を構成する主要技術分野の1つに「APN:All-Photonics Network」オールフォトニクス・ネットワークとはなにか|NTT R&D Website (rd.ntt)があります。APN ではネットワークから端末までの end-to-end が、現在の electronics(電子)ベースから photonics(光)ベースに転換され、その鍵となる革新技術として「光電融合技術」(※1)用いられます。これにより、「低消費電力(電力効率:100倍)」「大容量・高品質(伝送容量:125倍)」「低遅延(end-to-end 遅延:200分の1)」の実現が見込まれています。

同書『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』の序章で、電力消費増加の問題について次の様に触れられています。『さらに近年、電力消費の増大に拍車を掛けているのが、AI(人工知能)の急速な発展です。特に生成 AI の核を成す大規模言語モデル(LLM)を構築するには、膨大な計算処理が必要となります。最近の生成 AI には、数百億というパラメーター数を持つものがありますが、この規模の言語モデルを構築するには1300メガワット時、つまり原発1基1時間分の発電能力(1000メガワット時)を上回る電力が必要になるといわれています。しかも大規模言語モデルは1回つくって終わりではなく、定期的に更新する必要があります。このまま行くと、私たちの社会は想像を絶するほど大量の電力を必要とするようになるのです。

また『もし電力消費が現在の延長線上で増大していけば、いつか電力の制約によって技術革新の歩みを止めざるを得なくなるかもしれません。あるいは、その前に地球の温暖化が進み人間や生物が生きられないほど暑くなってしまうかもしれません。抜本的に低消費電力化しなければ、私たちの社会はいずれ立ち行かなくなってしまうでしょう。』と懸念を表しています。

「低消費電力(電力効率:100倍)」の目標達成に向けて、NTT は以下のロードマップを掲げています。

(※1)光電融合技術:電気通信システムの内部構成において、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合し、同じ回路内で双方の信号を混在させ最適処理する技術

②「気候変動」「二酸化炭素排出」「電力消費」三者の関係性

連日の様に新聞紙上を賑わせている気候変動(Climate Change)問題について、現在一般化しているのは以下の論法であり、本稿ではこれについて検証します。

1.【現状】地球規模の気候変動が発生
2.【原因1】気候変動の最大原因=二酸化炭素(carbon dioxide/化学式:CO2)(以下、「CO2」)による地球温室効果ガス
3.【原因2】CO2 排出の最大要因=発電所などの「エネルギー転換部門」
4.【原因3】最大の発電種別=火力発電(総発電の73%/2022年度)(※2)/火力発電で用いられる燃料=化石燃料(石油・石炭・天然ガス等/炭素が燃焼する過程で酸素と結合し CO2 が発生
5.【対策A】発電や自動車/製鉄高炉等で用いられる燃料/原料をクリーンエネルギー/再生可能エネルギー(太陽光、水力、Biomass、風力/還元鉄を押し固めた HBIHot Briquetted Iron 等)へ転換・代替(あるいは原子力発電⇒2011年発生の東日本大震災後に火力発電の割合が増加)
6.【対策B】データセンタ等における電力消費を低減

「全国地球温暖化防止活動推進センター」(JCCCAJapan Center for Climate Change Actionsの報告資料「日本の部門別二酸化炭素排出量)(2022年度)4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2022年度) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター によると、日本における2022年(令和4年)度の温室効果ガス排出・吸収量は約10億3,668万トン(CO2 換算)に上ります。また部門別 CO2 排出量【電気・熱配分前】(2022年度)の上位をみると、以下の通りです。

1.「エネルギー転換部門」(発電所の排出):4億2,016万トン(割合:40.5%)
2.「産業部門」(鉄鋼・化学分野などの工場排出、今後の AI 普及に伴うデータセンタ/サーバの電力消費):2億5,257万トン(割合:24.4%)
3.「運輸部門」(自動車走行時の排出):1億8,486万トン(割合:17.8%)
4.「業務その他部門」(商業・サービス・事業所):5,680万トン(割合:5.5%)
5.「家庭部門」:4,964万トン(割合:4.8%)

また「経済産業省 資源エネルギー庁」 安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁 によると、日本における一次エネルギーの構成割合(2021年度)の上位をみると、以下の通りです。

1.石油:36.3%
2.石炭:25.4%
3.液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas):21.5%
4.水力:3.6%
5.原子力:3.2%
6.クリーンエネルギー/再生可能エネルギー等:10.0%

(※2)経済産業省 資源エネルギー庁 発電方法の組み合わせって? | マンガでわかる 電気はあってあたりまえ? |広報パンフレット|資源エネルギー庁

③電気自動車(EV)への移行・失速の背景

近年、「環境に優しい」「地球に優しい」(また「弱者・少数者に優しい」「下位者に優しい」)など、兎角(とかく)社会で「優しさ」が喧伝されています。上述の部門別 CO2 排出量で上位を占める「運輸部門」すなわち自動車走行時の CO2 排出に関して、2023年末以降における欧米市場での電気自動車(EVElectric Vehicle)(以下、「EV」)販売の失速が報道されています。これに伴い主要自動車メーカーや系列部品メーカーにとって、 EV の開発・工場建設、生産・発売に関する計画や時期の見直しが余儀なくされています。

EV はモーターのみを動力源(powertrain)としています。EV 需要が停滞している原因は以下が挙げられています。

・高価格(製造コストの3~4割を占める「リチウムイオンバッテリー」価格が押上げ)
・充電の問題(充電 infrastructure=「急速充電」 station の普及が進んでいない、ガソリン車の満杯給油の所要時間が3~5分間であるのに対し、EV は「普通充電」(自宅等)で満充電に10時間以上所要、「急速充電」(充電 station 等/1回最大30分の時間制限有)で20kWh程度の充電量=満充電に至らない
・航続距離が短い(ガソリン車が満杯給油で500~800km以上走行可能であるのに対し、EV は満充電で200~500km程度
EV の「走行時」だけでなく、製造時」「廃棄時」「(充電から辿る)発電時」(火力発電等)など、ライフサイクル全体での CO2 排出量の考え方
・一部の国での購入補助金制度の終了

これに対して、日本のトヨタ自動車株式会社 トヨタ自動車WEBサイト を代表とする、ハイブリッド車(HVHybrid Vehicle)(以下、「HV」)販売の好調が報道されています。HV はエンジンとモーターを動力源(powertrain)に併せ持っています。HV 需要が伸長している原因は以下が挙げられています。

・手頃な価格
・圧倒的な低燃費(ガソリン代の節約/コストメリット)
・充電不要(減速時の回生ブレーキによる回生充電)
・使い勝手の良さ

筆者も以前、トヨタ自動車株式会社の初代「PRIUS」(1997年販売開始の世界初・量産 HV )を運転していました。購入の動機は、単純に燃費性能と充電不要の点でした。今後、運輸交通分野においても、EV の初期需要が一巡し、達成の道筋が定めにくい脱炭素の「理念」より経済性を重視した「現実解」が求められる様相がみてとれます。

④ヒートアイランド現象の考察

地球規模で論じられる気候変動(地球温暖化)に対して、筆者(大阪府在住)を含む都市生活者にとり「体感温度」として実感を伴うものに「ヒートアイランド現象」(Urban Heat Island Effect)があります。これは、都市部(特に東京・名古屋・大阪の3大都市)の局所的な気温が周辺の郊外部よりも島状に高くなる現象で、生活上の不快や熱中症(熱射病)の健康被害の拡大、生態系の変化(感染症を媒介する生物の越冬が可能になる等)が懸念されています。また気温上昇傾向は、日中よりも夜間、夏季よりも冬季に強く現れています。 

「ヒートアイランド現象」により気温上昇が顕著化する中、近時において夏季の「真夏日」(最高気温が30℃以上の日)「猛暑日」(最高気温が35℃以上の日)「熱帯夜」(夜間の最低気温が25℃以上)や「局地的集中豪雨」の増加、冬季の「暖冬化」による「冬日」(最低気温が0℃未満の日)の減少などの影響がみられます。気象庁の統計(統計期間:1931年~2010 年)によると、都市化の影響が少ないと考えられる全国15地点で平均した年平均気温では、100年あたり約1.5℃の割合で上昇しているのに対し、主要な大都市では約2~3℃(体感ではそれ以上)の割合で上昇しています。こうした大都市では、地球温暖化の傾向に「ヒートアイランド現象」の影響が加わり、気温の上昇は顕著になっています。 

「ヒートアイランド現象」の原因は、「都市化」の進展に伴う環境の変化が挙げられますが、具体的には以下が考えられます。

①植生域の減少と「人工被覆」域の拡大
草地、森林、水田、水面等の植生域は保水力が高いことから、水分の蒸発による熱(気化熱)の消費が多く、地表面から大気へ与えられる熱が少なくなるため、主に日中の気温の上昇が抑えられます。これに対して、アスファルトやコンクリート等による「人工被覆」域は、植生域と比べて日射による熱の蓄積が多く、また、暖まりにくく冷えにくい性質がある(熱容量が大きい)ことから、日中に蓄積した熱を夜間になっても保持し、大気へ放出することになるため、夜間の気温の低下を妨げることになります。

②都市形態の高密度化(建築物の高層化や高密度化)
近時の都市再開発に伴い密集した高層ビル群により、「天空率」(空が建築物に遮られていない程度を示す指標)が低下し、夜間における地表面から上空への「放射冷却」が弱まります。また高層ビル群により風通しが阻害され地表面に熱がこもることで、さらに気温の低下を妨げることになります。なお「ヒートアイランド現象」領域では、風が高層ビル群にぶつかり上昇気流の生じた収束帯で「積乱雲」(入道雲)を発達させることが報告されています。

③「人工排熱」(人間の活動で生じる熱)の影響
多様な産業活動や社会活動によりエネルギー消費が増加しています。これに伴う人工排熱の排熱源として、主に工場や火力発電所、また自動車や空調機器(室外機)などが挙げられます。特に都心部で人口が集中する地域では、昼間の排熱量は局所的に100W/m2 (中緯度での真夏の太陽南中時における全天日射量の約10%)を超えると見積もられています。

⇧(写真左)東京駅周辺の高層ビル群の様子、(写真右)東京湾から八重洲通りを通り皇居へ抜ける「風の通り道」

環境省・国土交通省・経済産業省 資源エネルギー庁などの関係府省による「ヒートアイランド対策推進会議」は、「ヒートアイランド対策大綱(平成25年改定)」taikou_h250508.pdf で、以下を対策の柱に取り組みを推進するとしています。

①人工排熱の低減
・エネルギー消費機器等の高効率化の促進
・省エネルギー性能の優れた住宅・建築物の普及促進
・低公害車の技術開発・普及促進
・交通流対策及び物流の効率化の推進並びに公共交通機関の利用促進
・未利用エネルギー等ヒートアイランド対策に資する新エネルギーの利用促進

②地表面被覆の改善
・民間建築物等の敷地における緑化等の推進
・官庁施設等の緑化等の推進
・公共空間の緑化等の推進
・水の活用による対策の推進

③都市形態の改善
・緑の拠点の形成、公園、河川、道路、下水道等の事業間連携などにより、広域的視点に基づく水と緑のネットワーク形成を推進
・都市に残された緑地や都市近郊の比較的大規模な緑地の保全
・コンパクトな市街地を形成するとともに、地域の風の流れに配慮して斜面緑地、水辺地、農地等の連続性を確保
・都市機能の集約化とそれに合わせた公共交通機関の利用促進を軸とした低炭素まちづくりを推進
・温室効果ガスの大幅削減などの高い目標を掲げて先駆的な取組にチャレンジする「環境モデル都市」等の選定
・区域の自然的社会的条件に応じた施策の立案・策定ノウハウの提供
・都市未利用熱の活用や大規模駅周辺等の低炭素化等、他地域のモデルとなるべき事業による新しい社会基盤の集中整備を支援

④ライフスタイルの改善
・冷暖房温度の適正化、エネルギー消費量のより小さい製品への積極的な買い替えと利用、太陽光・太陽熱エネルギー利用、夏季の軽装推進、夏期休暇取得の促進、市民活動等による打ち水の実施、雨水貯留・利用の促進等
・エコドライブの推進のための広報活動等を実施し、自動車の効率的な利用を推進

⑤人の健康への影響等を軽減する適応策の推進
・住民等が適応策導入の効果が実感できるような効率的な適応策の実施方法を明確化
・建築物の壁面や窓の外側を覆うようにつる性の植物を育てるいわゆる緑のカーテン
・気象データより全国各地における暑さ指数(WBGT)の予報値を算出し、熱中症予防情報として提供

⇧(写真上)大阪駅北側に2024年(令和6年)9月6日先行開業した「グラングリーン大阪」は都市公園の好例、(写真下)夏季に涼をもたらす広大な芝生広場・噴水と夜間の様子

※参考文献

IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』、島田明・川添雄彦、2024年(令和6年)、日経 BP
IOWN 構想 ―インターネットの先へ』、澤田純、2019年(令和元年)、NTT 出版
NTT 2030年世界戦略 「IOWN」で挑むゲームチェンジ』、関口和一/MM 総研、2021年(令和3年)、日本経済新聞出版
国土交通省 気象庁 気象庁 | ヒートアイランド現象
国土交通省 環境:ヒートアイランド対策 - 国土交通省

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