【第42回】「2025年大阪・関西万博」挿話《其ノ三》―NTT(Nippon Telegraph and Telephone Corp.)/IOWN2.0 で加速する Rule Making―
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※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
「2025年日本国際博覧会」(Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan) EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト (以下、「2025年大阪・関西万博」)の開幕まで3か月(90日)のタイミングで、大阪市此花区の大阪北港地区にある人工島「夢洲(ゆめしま)」の会場建設現場を8か月ぶりに再訪しました。2025年(令和7年)に「民営化40年」を迎える「日本電信電話株式会社」(NTT:Nippon Telegraph and Telephone Corporation) NTT / NTTグループ | 日本電信電話株式会社 (group.ntt) グループ(筆者も二十年来勤仕)(以下、「NTT」)。同社は「2025年大阪・関西万博」のパビリオンパートナーとして 「NTT パビリオン」を展開し<体験テーマ>「PARALLEL TRAVEL―パラレル トラベル―」を掲げています。これは「時空を旅するパビリオン」を意味し、次世代情報通信基盤「IOWN」の空間伝送技術により、コミュニケーションの未来に関する展示体験を届けるものです。NTTパビリオン | EXPO2025 | NTT
①IOWN ロードマップと「2025年大阪・関西万博」
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network) IOWN構想とは? その社会的背景と目的|NTT R&D Website (rd.ntt) とは、NTT 研究所 NTTの研究所|NTT R&D Website (rd.ntt) が提唱する、次世代通信基盤(端末の情報処理まで光化)です。その特徴は、情報を電気処理を行わず光波長信号のまま処理して伝送することにあり、2024年(令和6年)の仕様確定を経て、2030年代の実用化に向け開発が進められています。この IOWN を構成する主要技術分野の1つに「APN:All-Photonics Network」オールフォトニクス・ネットワークとはなにか|NTT R&D Website (rd.ntt) があります。APN ではネットワークから端末までの end-to-end が、現在の「electronics」(電子)ベースから「photonics」(光)ベースに転換され、その鍵となる革新技術として「光電融合技術」(※1)が用いられます。これにより、「低消費電力(電力効率:100倍)」「大容量・高品質(伝送容量:125倍)」「低遅延(エンドエンド遅延:200分の1)」の実現が見込まれています。
(※1)光電融合技術:電気通信システムの内部構成において、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合し、同じ回路内で双方の信号を混在させ最適処理する技術
NTT は IOWN 構想の実現(電力効率)に向けて、以下の技術開発ロードマップを策定しています。これに伴い「2025年大阪・関西万博」は IOWN2.0 のお披露目、すなわち光電融合デバイス(サーバ機器内のボード接続用)の商用化を発表する舞台として、国際的な成否の分水嶺となりましょう。
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②NTT の国際標準化(Rule Making)戦略
日本企業の海外ビジネス展開において、日本企業主導による「国際規格」等のルール策定(Rule Making)、すなわち「国際標準化」の取り組みが今後ますます肝要とされます。日本企業は、高度技術の研究開発力、高品質で低価格な製品生産力、また特許出願/保有件数の多さなどが強みです。これらに加え、欧米や中国が策定したルール上でなく日本企業主導で策定したルール上で新市場(パイ)の開拓・拡大を図り、自社の収益を高める「ビジネス戦略」が求められています。すなわち、ルールを制する者が市場を制するとも直言でき、海外を含めた仲間作り(partnership)を推し進め、国際ルール策定の端緒から戦略的に関与していくことが成長の起爆剤となり得ます。
「(国際)標準化」は以下の3つに分類されます。
■デジュール標準(De jure Standard)
デジュールは、ITU(※2)、ISO(※3)、IEC(※4) 等の公的標準化機関で、定められた手順と明文化された公開手続きにより合意を得た標準です。各国の主管庁が関与するため、場合により審議調整に時間を要することがあります。
■フォーラム標準(Forum Standard)
フォーラムは、特定の技術や製品に利害関係や関心をもつ複数の企業や団体でフォーラムと呼ばれる業界団体が結成され、そのフォーラム内の合意により形成される標準です。これにより柔軟かつ迅速な意思決定や標準策定が見込まれます。
■デファクト標準(De facto Standard)
デファクトは、市場における企業間の競争や消費者の選択行動などの淘汰を経て、広く一般に利用される様になった「事実上」の業界標準です。
また「オープン・クローズ戦略」は、市場における他社との「協調」領域(開発技術の特許出願やライセンス、標準化)と「競争」領域(ノウハウ化や秘匿化)を巧みに組み合わせることを指します。NTT の IOWN 構想における GAFAM(※5)の位置づけは、個別の競合分野では「競争」企業となりますが、個人ユーザーを含めた様々なステークホルダーと共同で推進していく「協調」企業ともなり得ます。NTT 代表取締役社長・島田明氏の言(日経ビジネス/2025年1月20日号)によれば、IOWN2.0 の光電融合デバイス単価を下げる意味でも、大規模クラウド事業者である GAFAM は、同デバイスの大規模な使用が期待できる顧客ターゲットとしています。
(※2)ITU:International Telecommunication Union(国際電気通信連合) ITU: Committed to connecting the world、国際連合の専門機関の一つ
(※3)ISO:International Organization for Standardization(国際標準化機構) ISO - International Organization for Standardization、情報技術分野は IEC と共同開発(ISO/IEC JTC1:Joint Technical Committee 1)
(※4)IEC:International Electrotechnical Commission(国際電気標準会議) International Electrotechnical Commission
(※5)GAFAM:世界市場において支配的な影響力とデファクト標準を握る米国巨大 IT 企業5社の略称(Acronym)⇒Google Inc.(現:Alphabet Inc.)、Apple Inc.、Facebook, Inc.(現:Meta Platforms, Inc.)、Amazon.com, Inc.、Microsoft Corporation
「IOWN Global Forum」Home - IOWN Global Forum - Innovative Optical and Wireless Network (iowngf.org) は、NTT(日本)、Intel Corporation(米国)、ソニーグループ株式会社(日本)の発起人3社により、IOWN のグローバルな普及・推進を目的として2020年1月に米国を本拠地に設立されました。2025年1月現在で、国内外から150を超える企業や団体が参加しています。2023年には、国連傘下の標準化機関「ITU-T(※6)」主催の「CxO Roundtable」(2023年12月5日開催、於:アラブ首長国連邦/ドバイ)にて、「IOWN Global Forum」設立メンバーの一つである NTT を代表とし、IOWN の国際接続性の担保や途上国も含めた世界展開に向けた技術仕様の公的標準策定(デジュール標準化)の重要性を提案し、本会議に出席した世界各国の CxO ならびに ITU-T 幹部の賛意を受け、合意に至りました。IOWN 構想の国際標準化と世界展開に向けた取り組み(標準必須特許(※7)の確保を含む)について、今後の動向を注視したいと思います。※ 2023年(令和5年)12月13日付ニュースリリース 国連標準化機関ITU-TにてIOWN技術仕様の公的標準策定を合意 | ニュースリリース | NTT
(※6)ITU-T:International Telecommunication Union- Telecommunication Standardization Sector(国際電気通信連合/電気通信標準化部門)ITU Telecommunication Standardization Sector、局長は日本から選出された株式会社 NTT ドコモ出身の尾上誠蔵氏
(※7)標準必須特許(Standard Essential Patent):特定の標準化技術等に準拠した製品の製造・販売やサービスの提供上、使用が不可避となる特許
NTT 島田社長(前述)および代表取締役副社長(技術戦略担当)川添雄彦氏の著書『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』によると、「IOWN Global Forum」は「技術開発」と「ユースケース」(利用事例)の両方の領域をカバーする関係企業が加盟している団体である点が特徴としています。以下に同フォーラムの取り組み内容を整理しました。(同書を基に筆者作成)
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なお直近の動きとして NTT は、ITU-T が主催する「CxO Roundtable」(2024年12月9日開催、於:アラブ首長国連邦/ドバイ)に出席し、近年の AI の大規模化に伴う課題を郊外型データセンタのリモート拠点上の分散型処理、AI コンステレーション(※8)などで解決する方針を提案。本会議に出席した世界各国の CxO ならびに ITU-T 幹部の賛意を受け、公的標準策定(デジュール標準化)の必要性が合意されました。この実現には、ITU-T の公的標準と、IOWN Global Forum で仕様制定が進められている APN、DCI(Data Centric Infrastructure)(※9)の技術の組み合わせが重要になります。※ 2024年(令和6年)12月13日付ニュースリリース国連標準化機関ITU-T CxOラウンドテーブル会議においてIOWNを活用した大規模AIインフラの基本方針を合意~世界が直面するAIの大規模化に伴うサステナビリティ課題に対しIOWN、AIコンステレーションへの高まる期待~ | ニュースリリース | NTT
(※8)AI コンステレーション:多様な AI モデルやルールの環境付与により AI 同士が相互に議論・訂正を行い、人間が要因推測すら困難な問題に対して、多様な視点から解を創出する大規模 AI 連携技術
(※9)DCI(Data Centric Infrastructure):光ネットワーク(APN で実現)上で構築されるコンピューティングとネットワークからなるサブシステム、アプリケーション(様々なユースケースを実現)が動作する情報処理基盤でコンピュータ電力効率の飛躍的向上が可能
③夢洲会場の建設状況(開幕90日前)
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⇧「咲洲」に所在する「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」43階の「公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会」(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)受付入口、この日は「開幕まで90日」のカウントダウン
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⇧「咲洲」に所在する「大阪府庁咲洲庁舎/さきしまコスモタワー」55階展望台から望む、「夢洲」会場全景
写真左は2024年(令和6年)5月時点、写真右は今回2025年(令和7年)1月現在の「夢洲」会場の建設状況を比較。
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⇧「夢洲」会場全景の建設状況を拡大
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⇧(写真上)「東ゲート」付近、(写真下・左)「EXPOホール/シャインハット」および「日本館」付近、(写真下・右)三菱グループパビリオン「三菱未来館」(地上に浮かぶ母船をイメージ)
※参考文献
『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』、島田明・川添雄彦、2024年(令和6年)、日経 BP
『IOWN 構想 ―インターネットの先へ』、澤田純(監修)、井伊基之・川添雄彦(著)、2019年(令和元年)、NTT 出版
『NTT 2030年世界戦略 「IOWN」で挑むゲームチェンジ』、関口和一/MM 総研、2021年(令和3年)、日本経済新聞出版
『NTT の叛乱 ―「宿命を背負う巨人」は生まれ変わるか』、堀越功、2024年(令和6年)、日経 BP