【第53回】「2025年大阪・関西万博」挿話《其ノ四》―開幕初日(4月13日)「夢洲(Yumeshima)と小糠雨(こぬかあめ)」半世紀越しの現地随感―

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
①夢洲会場・現地随感

「2025年大阪・関西万博」は、2025年(令和7年)4月13日から10月13日までの184日間、大阪市此花区は大阪北港地区の人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催の国際博覧会。日本での国際博覧会(登録博)開催は、2005年(平成17年)「愛知万博」(略称)以来20年ぶり、3回目であり、また大阪での開催としては1970年(昭和45年)「大阪万博」(略称)以来、実に55年ぶり、2回目となる。さらに直近では、2021年(令和3年)「東京オリンピック」以来の国家プロジェクトとなる。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、海外から160か国・地域、9国際機関(欧州連合、国際連合など)が参加する。
4月13日の開幕初日、あいにくの肌寒い小雨模様の中で夢洲を訪れた。向学のため当社海外渉外顧問の Wolf を帯同した。大屋根リング上の歩行路を含む広大な会場は一面、色とりどりの「雨に咲く傘の花」で埋め尽くされた。
・初日(4月13日)の来場者数:11万9000人、開幕1週間(13日~19日)の来場者数:52万4937人/公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会(以下、「協会」)発表
・いずれのパビリオン入館も果たせず(度重なる事前抽選への落選と当日入館待ち時間:概ね90分前後の長蛇の列)、特徴的な建築物外観の鑑賞に終始
・木造の大屋根リングは現地で目視して、その巨大さ、広大さに絶句
・午後1時過ぎから突如発生した台風並みの突風影響により、大屋根リング下など避難場所を探す来場者で会場内が滞留⇒海上(人工島)開催における難点か
・レストランでの食事も長蛇の列で叶わず、折しも強まった寒さと横殴りの強い風雨を会場内コンビニエンスストア軒下で避け、購買した簡易食の立食を余儀なくされた
なお筆者は2回目来場に向け、「万博ナショナルデー(各国)」に時期を合わせ日時登録した。(以下、協会ウェブページより) イベント情報 | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
万博会期中、万博に公式に参加する国・地域や国際機関「公式参加者」が1日ずつナショナルデー(国・地域)またはスペシャルデー(国際機関)を開催します。ナショナルデー、スペシャルデーは、それぞれの公式参加者の参加を称える日で、公式参加者の文化に対する理解を深め、国際親善の増進に寄与することを目的に行います。当日は、公式参加者が国内外の賓客や一般の来場者を招いて行う式典と文化イベントが行われ、多様な文化や特色に触れ、楽しむことができます。

⇧NTT パビリオンの様子
「日本電信電話株式会社」(NTT:Nippon Telegraph and Telephone Corporation)グループ(筆者も二十年来勤仕)は、「1970年大阪万博」の「電気通信館」に引き続き「NTT パビリオン」を展開。本年「民営化40年」を迎えた同社は「2025年大阪・関西万博」のパビリオンパートナーとして、<体験テーマ>「PARALLEL TRAVEL―パラレル トラベル―」を掲げている。これは「時空を旅するパビリオン」を意味し、次世代情報通信基盤「IOWN」の空間伝送技術により、コミュニケーションの未来に関する展示体験を届けるものである。NTTパビリオン | EXPO2025 | NTT
IOWN でつなぐ遠隔触覚コミュニケーションメディア「ふれあう伝話」<電話から、伝話へ。>(以下、NTT ウェブページより)ふれあう伝話 | EXPO2025 | NTT
<「いのち」ふれあう伝話>は、NTT パビリオンといのち動的平衡館の来場者どうしがモニタ前のテーブルに触れることで、それぞれの触れる感覚を伝え合うことができます。また NTT パビリオン側には聴診器型のデバイスが設置され、自分の心臓の鼓動を一緒に送ることができます。「いのち」の流れやその利他的なつながり、すなわち「動的平衡」を感じられる体験を創造します。

⇧日本館の様子

⇧ドイツ館の様子

⇧事前の想像を超えた大屋根リングの威容(地上からの展望)、その高さと伝統的工法「貫(ぬき)接合」は京都・清水寺の舞台を想起させ圧巻


⇧広大な大屋根リングの内側会場(東ゲート側からの展望)、建ち並ぶ数多のパビリオンと来場者で賑わう様子、写真正面はフランス館、米国館、フィリピン館など

⇧午前10時30分頃、曇天の西入場ゲート付近、多数の訪日外国人を含む来場者と案内誘導に追われる関係者

⇧午後1時過ぎ、会場内に発生した海からの突風と、強まる寒さ・横殴りの雨脚に、騒然とする来場者や関係者
②「訪日客数増」寄与への期待
2012年(平成24年)12月発足の第二次安倍晋三政権による「観光立国」国家戦略(観光立国推進閣僚会議 (kantei.go.jp))は、以下4つの重点分野をとりまとめた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」として推進された。
(1)日本ブランドの作り上げと発信
(2)Visa 要件の緩和等による訪日旅行の促進
(3)外国人旅行者の受入の改善
(4)国際会議等(MICE:Meeting・Incentive Travel・Convention・Exhibition/Event)の誘致や投資の促進
これらの施策により、2019年(令和元年)まで順当に成果を収めてきたが、2020年(令和2年)頃から感染拡大した新型コロナウイルスによる停滞を余儀なくされた。これは、「日本政府観光局」(JNTO:Japan National Tourism Organization、正式名称:独⽴⾏政法⼈ 国際観光振興機構)の統計(訪日外客統計|JNTO(日本政府観光局))でも明らかだ(下記グラフ参照/同局統計を基に筆者作成)。しかしながら、概ね2022年(令和4年)以降続く円安(week yen)基調の為替レート(exchange rate)の動きは、とりわけ2024年(令和6年)以降の訪日客数(Number of Foreign Visitor to Japan)の増加に拍車をかけている。
2024年の年間訪日客数は36,869,900人で、前年比では47.1%増、2019年比では15.6%増と、過去最高であった2019年の31,882,049人を約500万人上回り、年間過去最高を更新した(23市場のうち計20市場が年間の累計で過去最高を記録)。桜・紅葉シーズンや夏の学校休暇など、ピークシーズンを中心に各市場が単月での過去最高を更新し、東アジアのみならず東南アジア、欧米豪・中東においても実数を増やしたことが、年間過去最高の更新に繋がった。
2025年(令和7年)に入っても勢いは維持され、直近3月の訪⽇客数は3,497,600人で、前年同月比では13.5%増となった。3月として過去最高であった2024年の3,081,781人を大きく上回り同月過去最高を記録した。また3月までの累計では10,537,300人となり、過去最速で1,000万人を突破した。十余年前に始動した安倍政権による「観光立国」国家戦略は、いま「大輪の花」を咲かせている。満を持して開幕した「2025年大阪・関西万博」が、続く4月以降の数字(訪日客数増や消費額拡大)にどこまで寄与しうるか引き続き動向を追いたい。


③「1970年大阪万博」遺産の継承
限りある人生において、世界的に長い歴史と伝統を有する大規模な国際イベント(国家プロジェクト)に、自国開催として参加・体験しうる機会は多くない。それが「地元(の都道府県)での開催」で「2度に及ぶ」となれば尚更といえよう。誕生時期がもう少し早くても遅くても、あるいは出身地が他の地域であっても、そうした体験は得がたい。大規模な国際イベント(国家プロジェクト)の代表例として「オリンピック」と「万国(国際)博覧会」が挙げられる。双方の会期に着目すると、一般的に「オリンピック」が約2週間であるのに対して「万国(国際)博覧会」は約6か月間に及び、はるかに長い期間、人々に感動と興奮をもたらし、またその後の(国際)社会全般に大きな影響を及ぼしうる。
筆者とその少し上の世代(1950年代後半~1960年代前半を中心とする生まれ)、特に大阪(関西)人にとって、大阪府吹田市は千里丘陵で開催された「1970年大阪万博」への思い入れは強いものがあり、幼少期~子供時代に受けた体験として、人格の基盤形成に大きな影響を与えている。当時4歳であった筆者にとって、極めておぼろげな記憶しかない中でも、強く印象に残っているのは、何といっても岡本太郎氏制作の「太陽の塔」の存在。なお筆者にとって、一般的なグローバルイベントといった響きの「国際博覧会」よりも、どこか懐古的な響きの「万国博覧会」や「万博(バンパク)」の方に、強い愛着とこだわりがある。その「1970年大阪万博」以来、実に半世紀以上(55年)の時を経て、再び大阪の地で開催の「2025年大阪・関西万博」は、隔世の感とともに感無量の想いがひとしお。

⇧「1970年大阪万博」開催当時、(写真上)「シンボルゾーン」北西側「大地の池」付近の筆者と母、粗い画像で微かに窺える写真左奥「(トラス構造の)大屋根」と「太陽の塔(右後ろ頭部)」、(写真右下)同・南西側の筆者と母、写真左奥「太陽の塔(右半身)」と写真右手「フランス館(白い球体のパビリオン)」
「1970年大阪万博」で、「お祭り広場」上部の「大屋根」の設計また会場総合プロデューサーを務めたのは、「世界のタンゲ」として知られた建築家・都市計画家の丹下健三氏(大阪府堺市出身)。同氏は「国立代々木競技場」や「広島平和記念公園」また「東京都庁舎」等、数多の代表作の設計で夙に有名。トラス構造のスペースフレーム(グリッド構造)と透明ニューマチック・パネルの天井が印象的な「大屋根」の寸法は、高さ:30メートル、長さ:291メートル、幅:108メートル。その中央の大きな開口部(直径:54メートル)から突き出る形で「太陽の塔」がそびえ立つ構図は、極めて斬新に映った。

⇧「万博記念公園」の「EXPO’70パビリオン別館」本館2階「スペースシアターホール」内「大屋根(お祭り広場)」模型の全方位アングル
今回「2025年大阪・関西万博」の「大屋根リング」は、会場デザインプロデューサーで建築家の藤本壮介氏によるデザイン。その寸法は、円周:約2km、内径:約615m、高さ:12m(外側は20m)、延べ床面積:約66,000平米を有し、世界最大級の木造建築物となる。 0213ringu-siryou.pdf 筆者には、この「大屋根リング」の格子状に組まれた木材の柱や梁(はり)について、「1970年大阪万博」の「大屋根(お祭り広場)」の意匠・構造(の精神性)が受け継がれている様に感じられる。この大屋根リングは「太陽の塔」よろしく、万博の遺産として閉幕後も遺すべき傑作と思われる。

⇧あべのハルカス近鉄本店(ウイング館2階「2025大阪・関西万博オフィシャルストア」内)に展示の大屋根リング「1/50サイズ模型」