【第31回】日本語の違和感と和製外国語・カタカナ語の陋習(ろうしゅう)―英会話と絶対音感(Perfect Pitch)の聯絡(れんらく)―
※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。
①訪日客数が8か月連続同月過去最高を記録
2012年(平成24年)12月発足の第二次安倍晋三政権による「観光立国」国家戦略(観光立国推進閣僚会議 (kantei.go.jp))は、以下4つの重点分野をとりまとめた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」として推進されました。
(1)日本ブランドの作り上げと発信
(2)Visa 要件の緩和等による訪日旅行の促進
(3)外国人旅行者の受入の改善
(4)国際会議等(MICE:Meeting・Incentive Travel・Convention・Exhibition/Event)の誘致や投資の促進
これらの施策により、2019年(令和元年)まで順当に成果を収めてきましたが、2020年(令和2年)頃から感染拡大した新型コロナウイルスによる停滞を余儀なくされました。これは、「日本政府観光局」(JNTO:Japan National Tourism Organization、正式名称:独⽴⾏政法⼈ 国際観光振興機構)の統計(訪日外客統計|JNTO(日本政府観光局))でも明らかです(下記グラフ参照/同局統計を基に筆者作成)。しかしながら、概ね2022年(令和4年)以降続く円安(week yen)基調の為替レート(exchange rate)の動きは、2024年(令和6年)とりわけ今春以降の訪日客数(Number of Foreign Visitor to Japan)の増加に拍車をかけています。
直近の2024年(令和6年)9月の訪⽇客数(推計値)は2,872,200人、前年同月⽐では31.5%増、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年同月⽐でも26.4%増となり、8か月連続で同月過去最高を記録しました。また、9月までの累計では26,880,224 人となり、前年の年間累計である25,066,350人を早くも上回る結果となりました。また中身を見ると、23市場のうち 18市場(韓国、台湾、香港、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、豪州、⽶国、カナダ、メキシコ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、北欧地域、中東地域)において、9月としての過去最高を記録しています。日本人にとっては、日本に居ながらにして多様な外国人に接することができ、他国文化の理解や外国語の習得などに適した環境がいっそう整ってきたといえましょう。
②日本語の違和感と和製外国語・カタカナ語の陋習
「母国語教育(政策)」は、国家主権や「国体」(國體/国家体制)護持の要諦に関わります。我が国においても、「日本語の乱用・違和感」(憫然たる誤用、過度の省略・短縮、冗長表現、語尾伸ばし、稚拙化等)や「外来語の誤用・多用」(日本独自の創作である「和製外国語」や、外国語のカタカナ表記による「カタカナ語」、特に原語の不適切な形での省略・短縮)が問われて久しくなります。時代を経るごとにその状況は深刻化・全世代化し、一定の節目で国家としての指針策定や是正が図られる必要性を感じます。昨今の日本語の乱用に対して強い違和感(incongruity)を筆者が覚える中、ここでは「外来語の誤用・多用」の問題について順序立てて論考します。
①現代日本語の文字体系
・現代の日本語は、実に4種類もの文字で構成されています。すなわち「漢字」「ひらがな(平仮名)」「カタカナ(片仮名)」「alphabet」であります(および「アラビア数字」)。これは世界でも類がない文字体系と思われます。
・このうち「カタカナ」は、主に「和製外国語」「カタカナ語」で用いられています。
・また、alphabet は、主に「略語」(abbreviation)「頭字語」(acronym)で用いられています。
・この文字体系(4種類の文字による言語構成)は、毎朝目を通す大手の新聞紙面でも如実に表れています。
②近代以降の外来語使用経緯
・江戸期までは、徳川幕府による鎖国体制の下、基本的に「漢字」(漢語)と「ひらがな」(大和言葉)のみが用いられてきました。
・明治維新による開国以来、「脱亜入欧」政策の下、帝国列強(現在の西側民主主義国)の(外来)文字体系である alphabet を受け入れます。
・大正、昭和、平成と時代を追うごとに、次第に日本語を構成する「漢字」と「ひらがな」の割合が低下する一方、昨今急激に「カタカナ」と「alphabet」の割合が増加している様に思われます。
・「グローバル化≒米国化」を是として政治とメディアがこれを喧伝(助長)する中、「グローバル化の推進」は先進的な思想であって「日本やアジアへ拘泥(こうでい)」することは後進的であるかの様な捉え方が存在する様に思われます。
・しかし昨今の外来語を多用する風潮は、政治経済活動等の必要上や、他国文化の理解、外国語の習得など、本来の趣旨や許容度を逸脱している様に思われます。
・またこれにはファッション的な側面、すなわち外来語の使用によって、「耳障り(響き)の良い」「知的で洗練された」「先進的な印象がもたらされる」といった感覚的要素が作用している様に思われます。
・これに関連して、ビジネス用語や、国内企業名(IT・自動車産業など)とその製品・サービス名、芸能分野(音楽・映画・スポーツ等)における artist 名や作品名、歌詞(日本語を英語的に歌唱する手法等を含む)、ルール用語などに、外来語の多用が目立ちます。
・また国内企業等の広告イメージに登場する被写体(人物)は日本人でなく外国人(主に白人)であることが多く、ここにも日本人が内包する外国人(主に白人的な「美」の基準)への羨望が窺えます。
③言語学(linguistics)上の相違点
・元来、英語等の欧州系言語は「表音文字」(phonogram)、日本語(漢字)は「表語(表意)文字」(ideogram)であります。そのためこの両者間での変換(翻訳)は、欧州系言語同士(英語とフランス語等)のそれと比較して容易ではありません。このため、多くの日本人にとって英語等の原語での発音が不得手であるのは頷けます。
・また英語等の原語を日本語(カタカナ)に置き換える際、日本語の音節は大部分が「母音」(vowel)で終わるのに対し、英語等の音節では「子音」(consonant)のみで終わるものがあります。 また母音の前後に複数の「子音」が続くこともあります。この部分でも、多くの日本人にとって原語での発音が不得手であるのは頷けます。
④「和製外国語」「カタカナ語」の問題点
・「和製外国語」「カタカナ語」は、内部に閉じた関係性(日本人同士)において定着しています。しかしこれらは、原語から大きくかけ離れた、適切とは言い難い表現となっているため、外部との関係性(対・母国人/所謂 native)においては成立しない(通じない)状況となります。
・日本語に元来存在する概念であるにもかかわらず、敢えて(過度に)「和製外国語」「カタカナ語」へ置き換える風潮が、主流派大手メディアを含む社会のあらゆる領域で蔓延しています。
・この背景には、(特に negative な意味をもつ)言葉が、「和製外国語」「カタカナ語」による耳障りの良い「美辞麗句」(flowery words)へ置き替えられることで、その「本質」が巧妙に覆い隠されている感すら覚えます。
・昨今の「政治的適正性」(political correctness)の跋扈(ばっこ)する sensitive な領域については、特にこの傾向が強い様に感じられます。
・alphabet の羅列である「略語」「頭字語」等は、さながら「記号化」「符号化」しており、その「意味」すら捉えづらく、もはや日本語(言語)としての体を成さない様に感じられます。
・このことが、日本人の英語等の習得、すなわち原語での理解、原語での発音、会話(聞く・話す)能力の上達を阻んでいる要因でもあろうと考えます。
⑤総括
・高齢化が急激に進む我が国において、増加する高齢者(認知症を含む)にとって容易に理解しやすい文字体系を維持することが、今後肝要であると思われます。
・「和製外国語」「カタカナ語」は、しかしながら、一定の条件下ではその使用が許容されるものと思われます。筆者が考える基準では、日本語に元来その概念が存在しないもの、また外来してから一定の年数が経過することで社会の広い世代に遍く(あまねく)浸透・定着し、日本語に準用しても違和感のなくなっているもの。
・上記に挙げた状況や問題点は、その程度の差こそあれ、日本社会における「英語等⇒日本語」の外来類型だけでなく、外国社会における「日本語⇒英語等(日本語を起源とする英語等)」の外来類型においても同様であろうと推察されます。また欧州系言語において、「借用語」(loanword)の相互使用(英語におけるフランス語やラテン語等)は一般的であります。
③絶対音感と実戦経験による英会話習得
「絶対音感」(Perfect Pitch/Absolute Pitch)とは、「日常生活で聞こえてくる音」や楽器の演奏音や歌声などの「楽音」を聴いた際に、その「音名(音階)」を瞬時に認識し表現しうる希少な能力とされます。「音名」は日本では、イタリア語由来の『Do (ド)・Re (レ)・Mi (ミ)・Fa (ファ)・Sol (ソ)・La (ラ)・Si (シ)・Do(ド)』が一般的です。その際には、他の「基準」となる音との関係(高低差)から「相対的」に判断するのでなく、「絶対的」に認識することが特徴です。
英語等「表音文字」を用いる外国語(言語)の習得に関して、「聞き取り/発音/会話」能力の面において、「音感(音楽)」との関係性・共通性が大きい様に思われます。外国語の会話における強調(accent)、抑揚(intonation)、リズム/テンポなどの微細なニュアンスを、途中で日本語に変換することなく、そのまま「音」として聞き取り(input)発音(output)するプロセスがそれにあたります。
極論すると、以下に描写する<5工程>でなく、
(1)相手の話す英語等を聞く
(2)(頭で)いったん日本語に変換(翻訳)する
(3)(頭で)日本語で内容を考える(思考する)
(4)(頭で)日本語を再度英語等に変換(翻訳)する
(5)英語等で相手に話し返す
以下に描写する<2ないし3工程>の感覚といえます。さながら「脊髄反射」(spinal reflex)の要領ともいえます。
(1)相手の発する英語等の「音」を感じとる
(2)内容を「音」のままで反応し(3)「音」のまま相手に反射/反響(reflection)する
換言すると「赤ん坊の様に、聞こえるがままに真似をする感覚」が勘所(かんどころ)であろうと思われます。
「絶対音感」は6歳頃までの幼少期に得るのが望ましいとされています。しかし遺伝性や先天的なものばかりではなく、「反復的」に「和音/Chord」(「単音/Monotone」でなく)を聞いて判別する練習や、音楽に囲まれた家庭環境によっても培われるものとされます。英会話の習得についても、机上の学問や資格取得(読み書きや暗記能力中心)のための学習、あるいは(快適な環境下での)画面を隔てたオンライン形式によるものだけでは十分でないかもしれません。それは、母国人(所謂 native)との対面形式による、実社会の様々な条件(場所・時間・状況等)での「実戦」(修羅場)を積むことで、「体感的」に身につくものではないかと考えます。さらにはそうした「実戦」経験の数をこなす(場数をふむ)ことで、臨機応変で自由闊達な受け答えを可能にする「反射神経」の鍛錬にもつながる様に思われます。これにより、日本人のもつ「和製外国語」「カタカナ語」の陋習が打破され、「英会話」(原語で聞き、話す能力、さらには原語で論じる能力)の上達を促すものと考えます。
※参考文献
『絶対音感を科学する』、阿部純一、2021年(令和3年)、全音楽譜出版社
『ピアニストの脳を科学する/超絶技巧のメカニズム』、古屋晋一、2012年(平成24年)、春秋社
『音楽療法入門/理論と実践Ⅰ』(An Introduction to Music Therapy:Theory and Practice)、William B. Davis, Kate E. Gfeller, Michael H. Thaut、栗林文雄(訳)、2015年(平成27年)、一麦出版社