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【第34回】NTT(Nippon Telegraph and Telephone Corp.)と IOWN《其ノ四》―消費電力低減と気候変動《前篇》脱炭素の幻想と思想的転換―

※本稿の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。

①IOWN が目指す低消費電力

11月18日、NTTNippon Telegraph and Telephone Corporation/日本電信電話株式会社)グループ(筆者も二十年来勤仕)NTT / NTTグループ | 日本電信電話株式会社は、『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』を出版しました。以下はそのニュースリリースからの引用です。

2024年(令和6年)10月8日構想発表から約5年で大きく進化、IOWNの「今」がわかる書籍 『IOWNの正体-NTT 限界打破のイノベーション-』発行 | ニュースリリース | NTT (group.ntt)

2019年5月の「IOWN(アイオン)構想」発表から約5年、IOWN はすでに初の商用サービス「APN IOWN1.0」の提供を開始し、推進団体である「IOWN Global Forum」には世界中から150を超える企業や団体が参加しています(2024年9月時点)。世界中に急速に広まりつつある IOWN とは一体何なのか。生成 AI やメタバース、あらゆるモノがネットにつながる IoT の普及を背景として、現在世界の電力消費量は急拡大しており、地球の持続可能性が大きな課題となっています。電力効率100倍(消費電力1/100)を目標に掲げる IOWN は、それら課題解決の切り札となってきます。IOWN がどのようにサステナブルな未来を実現していくのか、その技術的な背景や、私たちの生活・社会に与える影響、具体的なユースケースなどを幅広く紹介しています。これから新しいことにチャレンジする方、ビジネスを変えたいと思っている方、最先端の技術・トレンドを知っておきたい方など、本書を通じて多くの方々に IOWN 構想へのご理解とご賛同をいただき、共に IOWN 構想を実現する仲間になっていただきたい、という思いから、本書の発行にいたりました。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」(IOWN構想とは? その社会的背景と目的|NTT R&D Website (rd.ntt))とは、NTT が提唱する次世代通信基盤(端末の情報処理まで光化)です。その特徴は、情報を電気処理を行わず光波長信号のまま処理して伝送することにあり、2024年(令和6年)の仕様確定を経て、2030年代の実用化に向け開発が進められています。この IOWN を構成する主要技術分野の1つに「APN:All-Photonics Network」オールフォトニクス・ネットワークとはなにか|NTT R&D Website (rd.ntt)があります。APN ではネットワークから端末までの end-to-end が、現在の electronics(電子)ベースから photonics(光)ベースに転換され、その鍵となる革新技術として「光電融合技術」(※1)用いられます。これにより、「低消費電力(電力効率:100倍)」「大容量・高品質(伝送容量:125倍)」「低遅延(end-to-end 遅延:200分の1)」の実現が見込まれています。

同書『IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』の序章で、電力消費増加の問題について次の様に触れられています。『さらに近年、電力消費の増大に拍車を掛けているのが、AI(人工知能)の急速な発展です。特に生成 AI の核を成す大規模言語モデル(LLM)を構築するには、膨大な計算処理が必要となります。最近の生成 AI には、数百億というパラメーター数を持つものがありますが、この規模の言語モデルを構築するには1300メガワット時、つまり原発1基1時間分の発電能力(1000メガワット時)を上回る電力が必要になるといわれています。しかも大規模言語モデルは1回つくって終わりではなく、定期的に更新する必要があります。このまま行くと、私たちの社会は想像を絶するほど大量の電力を必要とするようになるのです。

また『もし電力消費が現在の延長線上で増大していけば、いつか電力の制約によって技術革新の歩みを止めざるを得なくなるかもしれません。あるいは、その前に地球の温暖化が進み人間や生物が生きられないほど暑くなってしまうかもしれません。抜本的に低消費電力化しなければ、私たちの社会はいずれ立ち行かなくなってしまうでしょう。』と懸念を表しています。

「低消費電力(電力効率:100倍)」の目標達成に向けて、NTT は以下のロードマップを掲げています。

(※1)光電融合技術:電気通信システムの内部構成において、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合し、同じ回路内で双方の信号を混在させ最適処理する技術

②「気候変動」「二酸化炭素排出」「電力消費」三者の関係性

連日の様に新聞紙上を賑わせている気候変動(Climate Change)問題について、現在一般化しているのは以下の論法であり、本稿ではこれについて検証します。

1.【現状】地球規模の気候変動が発生
2.【原因1】気候変動の最大原因=二酸化炭素(carbon dioxide/化学式:CO2)(以下、「CO2」)による地球温室効果ガス
3.【原因2】CO2 排出の最大要因=発電所などの「エネルギー転換部門」
4.【原因3】最大の発電種別=火力発電(総発電の73%/2022年度)(※2)/火力発電で用いられる燃料=化石燃料(石油・石炭・天然ガス等/炭素が燃焼する過程で酸素と結合し CO2 が発生
5.【対策A】発電や自動車/製鉄高炉等で用いられる燃料/原料をクリーンエネルギー/再生可能エネルギー(太陽光、水力、Biomass、風力/還元鉄を押し固めた HBIHot Briquetted Iron 等)へ転換・代替(あるいは原子力発電⇒2011年発生の東日本大震災後に火力発電の割合が増加)
6.【対策B】データセンタ等における電力消費を低減

「全国地球温暖化防止活動推進センター」(JCCCAJapan Center for Climate Change Actionsの報告資料「日本の部門別二酸化炭素排出量)(2022年度)4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2022年度) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター によると、日本における2022年(令和4年)度の温室効果ガス排出・吸収量は約10億3,668万トン(CO2 換算)に上ります。また部門別 CO2 排出量【電気・熱配分前】(2022年度)の上位をみると、以下の通りです。

1.「エネルギー転換部門」(発電所の排出):4億2,016万トン(割合:40.5%)
2.「産業部門」(鉄鋼・化学分野などの工場排出、今後の AI 普及に伴うデータセンタ/サーバの電力消費):2億5,257万トン(割合:24.4%)
3.「運輸部門」(自動車走行時の排出):1億8,486万トン(割合:17.8%)
4.「業務その他部門」(商業・サービス・事業所):5,680万トン(割合:5.5%)
5.「家庭部門」:4,964万トン(割合:4.8%)

また「経済産業省 資源エネルギー庁」 安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 |広報パンフレット|資源エネルギー庁 によると、日本における一次エネルギーの構成割合(2021年度)の上位をみると、以下の通りです。

1.石油:36.3%
2.石炭:25.4%
3.液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas):21.5%
4.水力:3.6%
5.原子力:3.2%
6.クリーンエネルギー/再生可能エネルギー等:10.0%

(※2)経済産業省 資源エネルギー庁 発電方法の組み合わせって? | マンガでわかる 電気はあってあたりまえ? |広報パンフレット|資源エネルギー庁

③気候変動問題の幻想と思想的転換

近時の約30年間(特に米国 Barack Obama、Joe Biden 民主党政権下)で、脱炭素化へ向けた世界的潮流が深まる中、Donald Trump 次期大統領(および共和党)は気候変動の原因、すなわち「人為的=CO2 排出による温室効果ガス説」に対して懐疑的です。また気候変動に関連したリスクや脅威自体を否定しています。同大統領は、「米国地球変動研究プログラム」(USGCRPU.S. Global Change Research Programが去る11月23日にまとめた「第4次全米気候評価」(NCA4:Fourth National Climate Assessment, Vol IIFourth National Climate Assessment について「信じない」と発言、気候変動問題に対する従来からの国際認識は、米国発による「思想的転換」を迎える可能性があります。

米国次期政権の政策により具体的に以下の動きが想定されています。

1.「パリ協定」(Paris Agreement)(※3)からの再離脱
2.Joe Biden 大統領が制定した「インフレ抑制法(IRAInflation Reduction Act)」による、クリーンエネルギー(再生可能エネルギー)や EV 支援に対する法案廃止と投資抑制
3.石油・石炭・天然ガス等の化石燃料への投資拡大と国内産業の保護、エネルギー自給率の向上
4.各国企業の、(理念先行による)SDGsSustainable Development Goals)(※4) 戦略の見直し
5.各国投資家の、(理念先行による)ESG(環境/Environment、社会/Social企業統治Governance)配慮企業に対する投資戦略の見直し

Barack Obama 政権でエネルギー省科学担当次官を務めた、カリフォルニア工科大学の理論物理学者 Steven E. Koonin 氏は、その著書『気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?』(原題:Unsettled: What Climate Science Tells Us, What It Doesn’t, and Why It Matters)で、『科学界の実に多くの個人や組織が、情報提供ではなく説得のために気候科学を誤って伝えていることに失望している』と述べています。同氏は気候科学の最新評価から引用した事実を3つ紹介しています。

・過去100年間、人間はハリケーンに明確な影響を及ぼしてはいない。
・グリーンランドの氷床の縮小スピードは80年前と変わらない。
・人間が引き起こす気候変動の最終的な経済的影響は、少なくとも今世紀末までは最小限にとどまる。

同氏は以下の様に続けています。『たいていは長い伝言ゲームが原因だ。まずは研究文献から始まり、評価報告書、さらには評価報告書のサマリー、そしてマスコミ報道へと至る「伝言」の結果である。さまざまなターゲット向けに情報が次々とフィルターを通されるなか、偶然にせよ意図的にせよ、誤解が生じる機会は山のようにある。一般市民が気候関連の情報を得るのは、ほとんどがマスコミ経由だ。評価報告書のサマリーを読む人はまずいないし、報告書や研究論文を丸々読む人など皆無に近いだろう。これは無理もない。専門家でない人にデータや分析は理解しにくいうえ、内容が必ずしもおもしろいわけでもない。その結果、ほとんどの人は全体像がつかめない。』

また2015年11月にニューヨーク・タイムズの論説として発表された、同氏の気候変動に関する分析の要諦を引用します。(以下6項目)

・「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC:The Intergovernmental Panel on Climate Change)によると、気候に対する人間の影響を安定させるだけでも、全世界の1人当たりの年間 CO2 排出量を2075年までに1トン以下に減らさなければならない。これはハイチ、イエメン、マラウィなどの国の現在の排出量に等しい。ちなみに米国、ヨーロッパ、中国の2015年の1人当たり排出量はそれぞれ17トン、7トン、6トンだった。
・経済活動の活性化や生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に伴って、エネルギー需要は世界的に増大している。世界のほとんどの人が生活水準を向上させるなか、エネルギー需要は今世紀半ばまでに約50%増加すると見込まれる。
化石燃料は現在、世界のエネルギー供給の80%を占めており、拡大するエネルギー需要を満たすためには今後も信頼性と利便性が最も高い手段である。
・発電所、送電線、製油所、パイプラインといったエネルギー供給インフラは、構造上避けられない理由で徐々に変化する。
・先進国は確かに排出量を削減しなければならないが、たとえそれが半減し、途上国の1人当たり排出量が現在の低排出先進国と同水準までしか増加しなかったとしても、世界の年間排出量は今世紀半ばにやはり増加する。
人間および自然の影響下で気候がどう変化するか、またその変化が自然や人間のシステムにどう影響するかが不確かなため、排出量削減と経済発展の緊張関係は複雑になる。

(※3)パリ協定:「国連気候変動枠組条約」(UNFCCCUnited Nations Framework Convention on Climate Change)締約国会議(COPConference of the Parties)の第21回会議(2015年)で採択され、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える目標を策定
(※4)SDGs:2015年9月25日に国連総会で採択された、2030年までに達成すべき「持続可能な開発」のための17の具体的な国際目標

※参考文献

IOWN の正体-NTT 限界打破のイノベーション-』、島田明・川添雄彦、2024年(令和6年)、日経 BP
IOWN 構想 ―インターネットの先へ』、澤田純、2019年(令和元年)、NTT 出版
NTT 2030年世界戦略 「IOWN」で挑むゲームチェンジ』、関口和一/MM 総研、2021年(令和3年)、日本経済新聞出版
『気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?』(原題:Unsettled: What Climate Science Tells Us, What It Doesn’t, and Why It Matters)、Steven E. Koonin、三木俊哉 (訳)、2022年(令和4年)、日経 BP

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